第2話
帝に強い興味を持たれるまえに、私は五人の男をたぶらかした。
公達たちは、恋の和歌をうたい、笛を鳴らし、歌声を披露し、ときには強い意思表示のために扇を小気味よく打ち鳴らした。
いずれも私の関心をひくためだった。
その様が子供っぽくておかしくなることはあっても、私は少しも心動かされなかった。
しかし、このまま邪険にし続けては世話になった翁たちに迷惑がかかる。
翁夫婦は刑によりこの星にとばされた私を育ててくれた恩人だ。
「どんなに位が高い人たちであろうと、私はその心までも信じることはできません」
姫の言葉に、翁はあからさまに困った顔をした。
もとは庶民。
私という武器を得て表舞台に立ったものの、貴き人たちを相手することに慣れることはあるまい。
人生のポジションの急上昇に戸惑うばかりの気の毒な翁。
バカな男たちをさらしものにすることには爪先ほども心痛まないが、翁夫婦を追い詰めることになっては困る。
何とかしてやりたい気持ちが鎌首をもたげる。
「それでは、、、私が欲しいものを持って来れた人の元にまいりましょう」
翁の顔がほころぶ。
「それは何だ? かぐやの欲しいものとは?」
「それは・・・」
いかん、いかん、はずみで言ってしまった。
何も考えてない。
「これからじっくり考えたいと思います。大事な人を決めるための物ですから」
嘘をつくとき、人は大袈裟にものを言うものだな。
右頬のあたりがひくひくした。
「うん、うん、そうじゃな。じっくり考えたらエエ」
翁は顔をくしゃくしゃにして笑う。
ごめん、じーさん。迷惑かけて。どうにかしてあの五人、追い払うから。
私はいつもしているようにゆったりと笑い、体を回して翁に背を向けた。
表情が一気にだれる。
いい娘もやってらんねえぜ。
しかし、細い腰にくるな、これは。
この星の衣は重い。なんでこんなに何層も重ねるのだ・・・
「これも刑のひとつだろうか」
かぐや姫は月に向かって一人ごちる。
丸い月は姫に答えることなく、丸く明るく輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます