第34話 次は何処に?
田町に部活のことを相談した俺は、その事を伝えるためにもまた放課後に保健室まで来た。
「失礼しまーす」
「温森くん……どうだった?」
俺が保健室に来るとすぐに雪野が声をかけて来る。
どうやら佐野先生はまた留守みたいだ。
「まだ部活ができるかどうかは分からないけど、一応知り合いに相談はしておいた」
「そっか……その知り合いの人はどんな人?」
「えっと、俺のクラスメイトで、先生や生徒会とも仲が良い優等生の女子なんだよ」
「……そう、なんだ」
雪野は心配そうな顔で呟いた。
部活になるかどうかは、期待しないで欲しいと言われてしまったが……これは雪野に伝えないでおこう。
さらに心配させたくないしな。
「温森くんはさ……その子のこと、信頼してるの?」
「え? いや、別に信頼はしてないが」
「じゃあ仲良しなの?」
「仲良しってわけでもないが……なんでそんなこと聞くんだ?」
「……っ、べ、別に」
雪野はプイっと目を逸らすとササっとソファの方へ行ってしまう。
何なんだよ雪野のやつ。
なかなか部活にならなくて不機嫌なのか?
「温森くん、次の二人時間の場所決めよう」
「お、おう」
まぁ、何はともあれあとは田町からの吉報を待つことしか俺たちにはできない。
そもそも部員数の問題があるから部活動の申請が通るとは思えないが、部員が少ないなりに何とか作る方法があればいいが……。
「温森くんはさ、この前の二人時間で行った谷根千は楽しかった?」
「ああ、かなり楽しめたけど。雪野は?」
「え、えへへ……わたしも楽しかった」
雪野は照れ笑いを浮かべながら言う。
可愛いかよ。
「楽しいかどうかなんて、何で急にそんなこと聞くんだよ」
「お母さんがね、楽しいから病気の発作がないんじゃないかって」
「楽しいから?」
「ナルコレプシーの明確な原因は分からないけど、もしかしたらわたしの場合はストレスに感じることがあると寝ちゃうんじゃないかって」
ストレスに感じること……。
雪野はお出かけ中、ストレスがあまり無いってことならその可能性もあるのか。
「温森くんと一緒にお出かけしてると『ストレス』より『楽しい』の方が強い」
「そうか?」
「うんっ。あと、知らなかったことをいっぱい知れる新鮮さがあるし、それに対する興味が眠くさせないのかも」
つまり、お出かけには眠くならない要素がいっぱいあるってことか。
それが多ければ多いほど雪野が眠くなることも少なくなる……。
そう考えると、確かに雪野がナルコレプシーにならない理由にも納得が行く……かもしれないが、ナルコレプシーってそんな単純なものではないとも思ってしまう。
退屈だから眠たくなって、楽しいから眠たくならないなんて普通の人間も同じことだ。
俺も雪野と接するようになってから、ナルコレプシーという病気について調べたが、楽しいとか退屈とか関係なく、この病気を抱えている人は電池が切れたみたいに眠ってしまうらしい。
雪野のお母さんは、俺たちのお出かけを病気にとってプラスになっていると考えるバイアスにあるから、一般的な考え方で、楽しいから眠くならないと思っているみたいだが、それはあまりにも安直すぎる考えではないかと思ってしまうのだ。
そりゃ、楽しいってだけで雪野の病気が起きていないなら安心だけど……俺は雪野の病気が起こる原因を、本当の意味で明確にしてあげたいと思うから、まだ決めつけないでおこう。
「温森くんとずっと楽しいことしていれば、ずっと眠くならないかも」
「ずっとって……夜はしっかり寝ろよ」
「ふふふっ」
雪野は幸せそうに笑う。
やっぱり雪野の笑顔は天使という敬称が似合いすぎるほど可愛らしい。
こんなに可愛い雪野の笑顔が見れるなら、俺も頑張って雪野に付き合っているかいがあるってものだ。
「なぁ雪野、次の二人時間はどこに行きたい?」
「うーん……次はガッツリしたもの、食べに行きたいかも」
「ガッツリ? っておいおい、俺は行きたい場所を聞いたんだが……またメシかよ」
「いいのっ、スイーツはたくさん食べたから、今度はガッツリしたもの食べたい」
雪野はふんっと鼻息を荒くした。
食へのこだわりが凄いのなんの。
「分かった、じゃあ、その方面で探してみようぜ」
「うんっ」
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