第32話 あの子に頼みたい


 ——翌日。

 俺は早めに高校へ登校して、ある人物を待っていた。


 高校入学から2ヶ月。

 前まで一人時間を楽しんでいたくらいぼっち陰キャな俺には、相変わらず友達が雪野しかいないのだが、そんな俺にも、何かとうるさいことを言って来るヤツが一人いた。


「あら温森くん。おはよう」

「お、おう……おはよ」


 俺の後でクラスに入って来たのは委員長の田町友理愛たまちゆりあ

 完璧超人にして意識高い系の頂点に君臨する黒髪クール女。


 田町はいつも誰よりも早く登校して来るので、彼女に頼み事がある俺はそれよりも早く登校することで朝イチの教室で二人で話せるようにしたのだ。


 頼み事をするものの、俺ははっきり言ってこいつのことが少し苦手だ。


 いつも帰宅部の俺を小馬鹿にして来るし、自分が何をやっても優秀だから間違いなく俺のことを下に見てる。

 "ちょっかい"とまではいかなくても、やけにぼっちな俺に絡んで来るのが少し腹立つ。


 しかし、俺が知る限りではこいつほど人脈が広くて何でも知っている奴はいない。

 こんな俺でも少しはプライドがあるが、ここは雪野のためにもプライドを捨てて頼むしかない。


「な、なあ田町、話があるんだが」

「話? 珍しいこともあるのね、あなたが私に話だなんて。勉強のことかしら?」

「違う」

「な、なら何? いつも遊び呆けているあなたと違って私は忙しいの。私の邪魔をするためならやめてもらえる?」

「そんなんじゃない! 俺はお前に……その」

「えっ……」


 頼み事がある、と言いたいが、やはりプライドが邪魔してしまう。

 やっぱ田町に頭を下げるのは、い、嫌すぎる……。


「あなた、私に話があるのよね」

「ああ、俺はそのために今日は早く登校した」

「そのために……っ」

「ん?」

「ふ、ふんっ、なら早く本題に入ってもらえるかしら?」


 田町はやけに苛立つ様子で机をトントンと指で叩いた。

 どうやら怒っている感じではないが、やけに落ち着かない様子だった。


「田町、なんか顔赤いけど、大丈夫か?」

「そんなのいいから早くしなさい!」

「お、おう。じゃあ、お前に話したいっていうのは——」

「待って!」

「は?」

「やっぱりまだ心の準備ができていないの」


 田町はやけに赤い顔を手で冷やしながら言う。

 お前がさっさと話せって言ったのに、なんだよ心の準備って……。


「ふぅ……もう大丈夫よ。あなたの気持ちを伝えてちょうだい」

「ああ、じゃあ、俺さ」

「ええ」

「実は友達と部活を作りたいんだけど、色々と難しそうでどうしたらいいのかお前に相談したくて」

「……部活?」

「ああ、どうしても作りたいんだよ」

「そう、部活……部活」

「ん?」

「…………」

「た、田町?」


 急に黙りこくった田町は、さっきまでの赤い顔から突然真顔になると机に突っ伏す。


「お、おい本当に大丈夫か? なんか今日のお前、様子がおかしいし体調悪いなら保健室に」

「なんでもないわよ……おばか」

「はあ?」

「あなたが相談したいっていうのは分かったけど、あと1分ちょうだい……少しでも期待したこのバカな頭を冷やすから」


 なんだよ期待って。


 今日の田町は言動といい、行動といい、全てにおいて何かおかしかった。

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