第24話 猫LOVEな天使


 根津神社の参拝が終わり、俺と雪野が神社から出ようと鳥居をくぐったその時、雪野が足を止めた。

 ムッとやけに深刻そうな顔つきの雪野。


「ど、どうした雪野? もしかして眠たくなっちゃったのか?」

「違う……」

「なら、なんでそんなに思い詰めた顔を……」

「実はね」

「おう」


「猫さん、探すの忘れた」


 どっ、どうでもいい……。

 そういや雪野はここに入る前に猫が見たいとか言っていたな……。

 根津神社は野良猫を見かけることが多く、いつもは境内で日向ぼっこしているのだが、今日はいなかった。


「猫さん……」


 雪野は落ち込み気味で呟く。

 そんなに雪野猫が好きなのか。

 まぁ、本人が猫みたいだし……。


「あ、そうだ。雪野、ちょっとすぐそこまで寄り道していかないか?」

「寄り……道?」

「ああ。ちょっと見せたいものがあるんだよ」


 俺たちは千駄木駅方面に向かって歩き出す前に、少し寄り道をすることになった。

 俺が提案したその寄り道というのは。


「ここだ」


 根津神社の近くにある夏目漱石の旧居跡で、猫の家とも言われる跡地。

 家の跡地とはいえ、住宅街にある小さな一角のスペースに石碑があるだけなのだが、実はそこには石碑だけでなく、なんと……。


「な、なにこれ、石で作った猫さん……っ!」


 そう、ここには猫の石像があるのだ。

 夏目漱石の旧居跡にある猫の石像はとても精巧に作られており、足下でひっそりと佇む猫と、塀の上を歩く猫の2匹の石像がある。


「なんで猫さん?」

「ここは夏目漱石の我が輩は猫であるが書かれた場所だからな。石碑だけじゃなくて猫のモニュメントも作られたみたいだ」

「あっ、石碑の裏にある塀にも猫さん……写真撮りたいっ」

「じゃあ俺が雪野と猫を一緒に撮ってやるよ」

「ほんと?」

「二人時間は二人の時間なんだし、お互いに写真を撮って記録を残すのも大切だからな」


 俺はスマホを出すと、雪野にスマホのレンズを向ける。


「よし、撮るぞ」

「うんっ」


 雪野はしゃがみ込むと、足下の猫の石像に触れながら無邪気な笑顔を俺の方に見せた。

 雪野って……カメラを向けたらこんな顔、するんだな……。


「撮れた?」

「あ、ああ」

「じゃあlimeで送って? お母さんに見せたい……」

「分かった」


 俺は頼まれた通りに雪野へ写真を送信する。

 お母さん、喜ぶだろうな……。


「わたし、夏目漱石がここに居たなんて知らなかった」

「この周辺は文豪の聖地だからな。夏目漱石以外にも森鴎外の記念館もあるぞ?」

「へぇ……」

「そっちはしっかり記念館で資料とかも置いてあるし、あとカフェもあるんだ。行ってみるか?」

「森鴎外の方には猫いない?」

「あ、ああ、多分いないかな」

「ふーん……じゃあいいや」


 じゃあいいやって、森鴎外が可哀想だろ……!

 猫がいないとドライな雪野だった。



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