第25話 雪野の過去?


 少し寄り道をしたものの、大通りに戻った俺たちは、また千駄木駅に向かって歩き出す。


「……ふぅ」


 雪野は額に汗をしながらも、小さな足取りで必死に歩いている。


「雪野、ここまで結構歩いたけど大丈夫か?」

「大丈夫……これもダイエットのため」


 ダイエットねぇ……。

 さっきまで俺にスイーツをねだっていた奴とは思えない。


「あのさ、今さらこんな事言うのはおかしいかもしれないが……」

「なに?」

「俺、前に雪野をおぶったことあったけど、めちゃくちゃ軽かったし、少し太ったとしてもダイエットしなくてもいいんじゃ」

「ダメ……少し太るのを許容したら戻れなくなる」

「な、なんか経験者の口振りみたいだが」

「……うん、実は」


 雪野は無言で難しい顔をしながらおもむろに話し始める。


「お母さんがお仕事で成功して、急にお金持ちになった時……わたし、調子に乗って毎日のように都内の高級ビュッフェに連れて行って貰ってた」

「ビュッフェって……まさか雪野」

「うん、そこで毎日考えられないくらい食べてたら、ぷっくりしちゃってた時期があって」


 ゆ、雪野がぷっくり!?

 今は棒みたいに細い腕と足をしてて、すごい痩せ型なのに!?


「その時期の雪野、見てみたいな」

「絶対に見せない」


 まぁ、だろうな。

 雪野はこの前も胃もたれするくらいスイーツを次から次へと食べても平気だったし、痩せてる割にはやけに大食いだとは思っていたが……そんな秘密があったとは。


「貧しい頃は一日2食食べれたら嬉しいくらいの貧しい生活だったから……その反動でいっぱい食べちゃったの。それで小学生の時はぷっくりして……」

「それならどうやって今の体型に戻ったんだよ? やっぱダイエットか?」

「ううん。ぷっくりしてから食べる量を減らしたら、だんだん痩せた身体に戻った」

「だったら今回もそれでいいだろ!」

「ダメ。昔はゆっくり痩せるのでも良かったけど、今はすぐ痩せたい」

「は、はあ?」


 痩せるのに即効性も遅効性もないだろうに。


「今は……と、友達が、いるから」

「友達? お、俺のことか?」


 雪野は赤べこみたいにこくこく頷くと、俺から目を逸らす。


「だって……温森くんに太ったとか思われたくないもん」


 太ったと思われたくないって……だから俺は太ったとか微塵も思ってないんだが?


「あ……ドーナツ、美味しそう」

「は?」


 雪野は言ったそばから千駄木駅の近くにある大手ドーナツチェーンの店に熱視線を送っていた。 


「もちもちリングドーナツ、一個食べていい?」


 今さっきまでの固い意思は何処へ……。


「ダメだ。この後『谷中銀座』に行くんだから腹は空かせておけ」

「谷中銀座? 何それ、美味しいの?」


 偶然にもネットスラングを使ってしまう雪野。


「谷中銀座はさ、雪野が大好きな場所だ」

「ほへ?」

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