第20話 フルアーマー雪野小道


 ——翌日の放課後。

 俺と雪野は放課後の二人時間を過ごすために高校の最寄り駅まで来ていた。


「今日はね、お母さんがスマホにICカード入れてくれた」


 雪野はドヤ顔でスマホに交通系ICカードを表示させると、これ見よがしに自動改札を通過する。


「どやぁ……」


 これまでの鉄仮面っぷりからは考えられないくらい、鼻を天に突き立てて目を細める雪野のドヤ顔。


「すっ、凄いな、雪野(ドヤ顔が)」

「ふふんすっ」


 俺が褒めると嬉しそうに鼻息を荒くする。


「それにしても今日は準備万端みたいだな」

「うん……超カンペキ」


 ICカードだけじゃなく、今日は歩く気満々の雪野は、今日はいつものローファーではなくピカピカの白いスニーカーを履いている。

 ランニングするわけでもあるまいし……。


「そのスニーカー」

「これ、いいでしょいいでしょ?」


 雪野は食い気味に自慢して来る。

 今日はテンション高え……。


「もしかして今日のために買ったのか?」

「うん……! おニューのスニーカー」


 おニューって。

 今日も雪野の尖った語彙は健在。


「お母さんがね、男の子は歩くのが早いから、ちゃんとついていけるようにって。温森くんにご迷惑をおかけしないためにも新しいの買ってくれた」

「へ、へぇ……」


 雪野のお母さんって律儀でしっかりしてるけど……無駄に細かい人だな。

 歩くのが遅いからって迷惑なんて思わないのに。


「でも温森くん……この前もわたしに歩幅合わせてくれてた」

「え?」

「わたし歩くの遅いのに、温森くんはいつも隣にいるから。わたしに合わせてくれてるんだなって」

「ま、まぁ、そうかもしれないけど」

「……ありがと」


 雪野は小さく笑みを浮かべながら呟いた。


 特に意識してやっていたわけじゃないけど、雪野は歩幅がやけに小さいので、俺はつい合わせていただけ。


 それに、先を急いで雪野を置いてどんどん前を歩くなんて、誰だってしないだろ。

 だから別に感謝されるほどのことではないと思う。


「温森くん、電車きた」

「よし、じゃあ行くか」


 雪野と一緒に高校の最寄り駅から電車に乗る。

 そこから数駅先まで移動し、午後16時過ぎに到着したのは地下鉄の根津駅。


「ここからお散歩が始まるの?」

「ああ。今日の二人時間は……"谷根千やねせん"を歩くことにしよう」

「やねせん……っ?」

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