第14話 雪野との関わり方
俺と雪野が……二人でお出かけ……?
「む、むむむ、無理ですよ絶対!」
「今日出来たんだからいいじゃん。なに? 雪野のこと嫌いなの?」
「嫌いっていうわけじゃないっすけど……」
雪野は高校でも高嶺の花と呼ばれている存在で、片や俺は一人で街歩きをするのが趣味なクラスのぼっち男子。
とてもじゃないが、俺は雪野に釣り合う存在じゃない。
そんな俺と雪野が一緒にいたら……周りはよく思わないかもしれない。
「もしかしてヒエラルキー感じてる?」
「……なんで分かるんですか」
「そりゃ雪野は人気者だし、キミは……まぁ」
「まぁ」の所だけため息混じりに言う佐野先生。
相変わらず失礼極まりない教師だが、実際その通りだからな……。
「キミは雪野の治療に必要な存在なんだよ」
「俺が雪野の治療に?」
「ナルコレプシーには明確な治療法がない。だからやれることは何でもやるし、その一つとして、『キミといれば眠らない』とするなら、雪野の治療にキミは必要なんだよね」
「でも、最初に会った時は寝てましたけど」
「そこなんだよ」
「そこ?」
先生は保健室の黒板の前に立つと、チョークを手に取る。
「雪野のナルコレプシーが何を原因として起こるのか分からない中で、温森と話しながら長時間歩いても発作が起きなかったのは一つの事実。しかし出会った時は寝てしまったのも事実」
「は、はぁ……」
先生は黒板に「温森LOVE」と「温森UNLIKE」と書いてドンと叩く。
言いたいことは全く理解できない。
「だから一つの過程として、雪野は楽しくお話ししている時は起きているんじゃないかと」
「楽しく話している……? ああ、確かに浅草に行く時の雪野はずっとテンションが高かったし、口も普段よりは滑らかだったかも」
「だーかーら、もう少し付き合って欲しいの」
先生はまた椅子に座り直しながら駄々っ子みたいに言う。
「まぁ……そういうことなら協力しますけど、雪野と毎日お出かけするってわけにはいかないでしょ」
「いや、しろ」
「はぁ……ブラック企業の上司かよ」
佐野先生って理論派のフリして強引だな。
「先生の言いたいことは分かりました。でもまずは雪野の意見も聞きたいし、一旦保留で」
「まぁ、それもそうね。でも雪野はまたキミとお出かけしたいと思うよ」
「そうですか……?」
「女子っていうのはね、楽しい時とか嬉しい時は、足取りが軽くなるものなの」
「は、はぁ」
先生の言っていることの意味が俺にはよく分からなかったが、それでも雪野のためになるなら自分の立場とか考えずに、素直に協力したいと思えた。
✳︎✳︎
——翌日。
高校に登校して来た俺は、いつも通り眠たい目を擦りながら教室へ向かう。
昨日の夜は浅草で撮った写真や動画を『自分時間』のフォルダに入れていたら寝落ちしていた。
今、俺の頭の中は次に自分時間で向かう場所のことでいっぱいだが、それと同時に雪野と行く場所についても考えなければいけない。
もしまた「お出かけ」とやらをするとしても、雪野はどうせ俺に行き先を丸投げしてくるだろうし。
「はぁ……」
「おはよう。温森くん」
その長くて繊細な黒髪を靡かせ、俺の机までやって来たのはクラス委員長の田町。
げ、田町友理愛……!
朝からこいつに声かけられるとか……今日は厄日だ。
「一つ、いいかしら」
「なんだよ」
「保健委員の仕事、昨日はやっていなかったみたいだけど……サボりかしら?」
こいつ、なんで俺が昨日備品確認の仕事をしなかったこと知ってんだ……!
「お、お前には関係ないだろっ」
俺はそっぽ向きながら誤魔化す。
「じゃあ、もう一つ」
「言いたいことは一つじゃなかったのかよ」
「この前、雪野さんと一緒にいるのを見かけたのだけど、仲が良いの?」
「……ノーコメント」
「そう……でも不思議ね。あなたみたいな周りに興味を持たない人間でも、女子と仲良くしたりするのね? それも、あの雪野さんと」
「…………」
俺は返す言葉が見つからなかった。
こいつだけじゃない。周りの人間はみんなそう思ってるんだよな……。
「聞きたいのはそれだけだから。失礼したわ」
田町はくるりと踵を返すと自分の席に戻って行った。
わざわざ嫌いな俺に棘のあること言いにくるなんて、あいつ暇人かよ。
それにしても……雪野との関わり方、か。
次の行き先といい、考えなきゃいけないことは山積みだな……。
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