第13話 天使の母
高校まで戻って来た俺と天使は、そのまま天使のお母さんが待っているという保健室へ。
「失礼します」
「おお温森ー、あと雪野もやっと帰って来たねー」
保健室には、佐野先生と黒髪ショートの鋭い目つきをした女性がいた。
その女性は背が高く、スレンダーでスラっとした身体つき。
服装は黒のレディーススーツを着ていて、片手にはタブレット端末を持っており、その腕にはお高そうな腕時計を巻いている。
もしかしてこの人が……。
スーツの女性は俺に気づくと綺麗な足取りで俺の前まで歩み寄る。
「初めまして。小道の母です」
ああ……やっぱり天使のお母さんだったのか。
「は、初めまして」
手紙の印象ではもっとほんわかで優しいお母さんだと思っていたが……どうやら真逆みたいだ。
天使と同様にクールな面持ちをしていて、目つきが鋭いから少し萎縮してしまう。
そのスーツ姿やタブレット端末を見るに、経営者っぽい印象を受ける。
「本日はうちの小道がお世話になりました。ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
天使のお母さんは天使と同じく感情を出さないように淡々は喋るので、イマイチ感情が掴みづらい。
「お母さん……今日はわたし、寝なかった」
「……っ! 本当ですか?」
お母さんはすぐに俺に問いかけてくる。
「は、はい。ずっと食い意地……じゃなくて元気でしたよ」
「はい? 食い意地?」
俺の失言を見逃さない天使のお母さん。
やべ、つい本音が……。
「温森くん余計な事言った」
「だって事実だろ」
「そんなことない……わたし、食い意地なんて張ってない」
「あれだけ食べておいてそれはないよ」
「あれだけ? わたしのお腹、まだ行ける」
「そういうのを食い意地張ってるって言うんだろうが」
「はいはいそこまで! 雪野が寝なかったってホントなの?」
俺たちが言い合いをしていると、佐野先生が割って入って来て話を戻す。
「全然眠くなかった……証拠にほら、心拍数」
「本当だ。雪野の心拍数がずっと歩行時の数値を維持してる……」
天使がスマートウォッチを佐野先生に見せると、佐野先生は目を丸くして驚いていた。
天使が寝ない事ってそんなに驚く事なのか?
てっきり俺は、そういう日もあるものだと思っていたんだが。
「小道が寝なかったのは喜ばしいことですが、何よりお友達にご迷惑をおかけしなかったことが一番です。それでは小道、もう帰りますよ」
「うん」
天使のお母さんはクールな面持ちを崩さないまま、天使の荷物を手に取ると、保健室の引き戸を開ける。
「温森さん……小道がそんなにお友達と話しているのは初めて見ました。よほど、あなたのことを信頼しているのだと思います。これからも何卒ご贔屓に」
お母さんは去り際にそう言って天使を連れて帰って行った。
最後までクールな人だったな……。
天使も最初は愛嬌がないと思っていたが、それはお母さん譲りだったのか。(天使の場合、スイーツに屈してからは面白くなっちゃったけど)
「温森ぃ」
「なんですかその目」
「今のって、親公認カップルになったってことなんじゃない?」
「はぁ……佐野先生、茶化さないでくださいよ」
「茶化してないって! なんならあの美魔女お母さんも今フリーだし母娘丼だよ!?」
「マジであなたを採用したこの高校の人事は狂ってる」
「ひっど」
残された俺と佐野先生は少し話すことに。
先生は自分の席に座り、俺はソファに座った。
「で、どうだった? 初めてのデートは楽しかったかい童貞くん」
「別に負け惜しみじゃないですけど、高校一年で童貞じゃない方が不純ですから」
「それはそう。もし童貞じゃなかったらうちの雪野に指一本触れさせないし。キミは選ばれた童貞だからね」
馬鹿にしたいのか擁護したいのかどっちなんだこの人。
「んで、楽しかった?」
しつこく話を戻す佐野先生。
「そりゃ……まぁ」
楽しくなかったなんて言ったら嘘になるし、先生にぶん殴られそうだ。
「うっわぁ、青春してるわぁこの男。マジうざー」
先生は苛立ちながら天を仰いだ。
アンタの方がウザいんだが。
「まっ、あたしの青春妬みは置いといて」
「自分で散らかしといて自分で片付けないでくださいよ」
「それよりも、2時間も人通りの激しい浅草の街を歩き回っていたのに、ナルコレプシーが起きなかったのは意外」
「そうなんですか?」
「うん……だって雪野は、高校にいても結構ナルコレプシーの症状を起こすからさ」
本人も驚いていたが、やっぱり意外なことだった。
「ねえ温森、ちょっと提案なんだけどさ」
「提案?」
「これからしばらく雪野とお出かけしてみてくれない?」
「え……?」
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