第12話 天使は理由が知りたい。


 抹茶モンブランを食べ終わって店を出た俺と天使は、そのまま雷門を通りその先にある浅草駅に到着した。


「もうすっかり日も暮れてるし、家まで送るよ」

「うん……ありがと温森くん」


 天使は良くも悪くも目立つし、一人にさせるわけにはいかない。

 この駅に来るまでの道中も、周りの視線が天使に集まっていた。

 確かに天使の容姿は、テレビに出てるアイドルと同じくらい整っていると言っても過言じゃない。

 その端正な顔立ちだけでなく、色素の薄いストレートヘアは特別感があり、星の髪留めも少し幼く見えるが可愛い。

 身体がスレンダーで背も低いから一見、子役のようにも思えるが、歩き方や佇まいはお嬢様みたいで気品があり、大人びて映る。


 そんな彼女が周りから注目されない訳がない。

 それが災いして犯罪に巻き込まれないか心配になるし、何より人の多い場所でナルコレプシーが起きたら大変だ。


 だからこそ、これまで天使はお母さんに大切にされて来たんだと思う。

 そんな彼女を預かることになったなら、最後まで送るのは俺の責任だろう。


「あ、お母さんが高校に来てるみたい」

「そうなのか? なら高校まで送るってお母さんに伝えて貰っていいか?」

「うん」


 天使がお母さんとlimeをしているうちに、俺はまた天使の切符を購入し、天使と一緒に改札を通る。

 駅のホームまで出て電車を待っていると、天使は俺の制服の袖を優しく引っ張った。


「ちょっと不思議……なの」

「不思議? なにが?」

「えっとね……」


 天使は考え込みながら小さな声で続ける。


「今日、全く眠たくならなかった」

「そ、そういえば……そうだったな」


 思い返せば、確かに天使は全く眠たそうな素振りを見せなかった。

 いつしか天使が眠ってしまう心配よりも、スイーツの食べ過ぎの方が心配だったくらい。


「不思議。こんなに歩いたらいつもなら途中で意識が飛んじゃうのに」


 天使は眉間に皺をよせながら「うーん」と唸る。


「スイーツが美味しかったからじゃないのか?」

「でも……いつもお母さんとアフタヌーンティーする時は席で寝ちゃうし」 


 アフタヌーンティーって……この金持ちめ。


「よく分かんないけど、良かったじゃないか。きっとそういう日もあるんだよ」

「うん……」


 天使はしっくり来ていないというか、納得いかない様子のままちょうど来た電車に乗り込んだ。

 俺は天使を座らせてその前に吊り革を持って立つ。

 座った天使は上目遣いでずっと俺のことを見つめて来た。


「もしかしたら……一緒だった……かも」


 車内の雑踏と車輪の音にかき消されてよく聞こえなかったが、天使はまた優しい笑みをこぼすと、背後にある車窓の奥をジッと見ていた。

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