第9話 天使とスイーツ02
ワガママな天使は律儀にも俺が食べ終わるのを待っていてくれる。
俺は食べ歩きでもいいと言ったんだが、天使は「そんなの危ないからダメ」と母親みたいな事を言って止めてきた。
まあ、それでいいならお言葉に甘えることにしよう。
店の前にある物陰で食べながら、俺は一口一口味わう。
「じー」
俺が抹茶クレープを食べる傍らで、天使は俺のクレープを物欲しそうな目で見てくる。
物欲しそうな目、というのは俺の勝手な想像なのだが……なんていうか、どこからどう見ても欲しがってそうなのだ。
「なんだよ。もう自分の食べただろ」
「……わたし、欲しいだなんて言ってない」
「目で訴えかけてきてるんだよ、目で!」
「ならちょうだい」
「やっぱ欲しいのかよ!」
はぁ……仕方ない。
俺は天使に分けるため、スプーンでクレープの中の抹茶ティラミスとクリームを絡める。
「あ、でもスプーン同じは嫌か。なぁ雪野、お前のスプーンを」
「ぱくり」
「え?」
天使は背伸びをしながら俺のクレープに顔を近づけると、獲物を掻っ攫う野鳥の如く俺のスプーンを口に入れた。
天使は平然とした顔でスプーンの抹茶ティラミスを食べると、背伸びをやめる。
「むふぅ……やっぱり美味しい」
「い、いや! 美味しいじゃない!」
「え? ……美味しいよ?」
「それはそうだけどそうじゃないだろ!」
俺は今は目の前で起きたことを整理する。
天使は俺の使ったスプーンを平気で使ったのだ。
これって……か、間接……!
「何かあったの?」
「いや、だってこれは俺が使ったスプーンなんだぞ?」
「ん? 別に気にしない……」
「はあ!?」
「だってお母さんの使ったスプーンでも気にならないし」
「どう考えても比較対象おかしいだろ!」
天使は世間知らずの度を超えてる。
「あのな、俺の使ったスプーンに口つけたら俺と……か、間接キスしたことになっちゃうだろ?」
はっきりそう告げると、天使は数秒考え込み、一気に顔が真っ赤になる。
「それは……考えてなかった」
「考えろよ!」
「抹茶が欲しくて……」
こいつ、あまりにも欲望に忠実すぎるな。
もう天使どころか堕天使だろ。
「そんなにまだ抹茶スイーツ食べたいのか?」
「男の子と……間接キス……」
「おーい、いつまで動揺してるんだ? 早く戻って来い」
「……な、なに?」
天使はまるで俺が悪いことをしたかのように怪訝そうな顔になると、少し不機嫌な声色で聞き返してくる。
「抹茶スイーツ、まだ食べたいのかって聞いてるんだよ」
「え、まだあるの?」
「ある。次は……人形焼きとかどうだ?」
「抹茶の、人形焼き?」
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