第8話 天使とスイーツ01


 店の前は学生や観光客で賑わっており、俺と天使は列に並ぶ。


「人多い……人気」


 SNSでいつもバズってるから仕方ない。

 それにむしろ今日は少ない方だと思う。

 聞いた話だと休日とかは1時間待ちとかもあるみたいだし。


 やっと順番が回ってくると一番シンプルな抹茶クレープを二つ注文し、店先から店内でクレープを作る様子を見つめる。


「もっと冒険しなくて良かったのか? プリン味とか色々あったぞ?」

「抹茶……抹茶だけあればそれでいい」


 抹茶好きすぎだろ。


「お待たせしましたー」


 店員さんから渡された二つのクレープ。

 外は緑色の紙で包まれており、生地はもっちりとした抹茶味の生地。

 その中には抹茶のティラミスに真っ白なマスカルポーネチーズクリームがぎっしりと入っており、さらにその上からは抹茶パウダーをまぶされていた。

 抹茶に抹茶を乗せて抹茶をまぶすという抹茶尽くしの一品。


「はい雪野」

「わぁぁぁ……」


 俺は天使にクレープを渡す。

 抹茶クレープの大きさは、天使が両手で持たないと落としそうなくらいの両手サイズなので、俺は食べることよりも天使が落とさないかの方がヒヤヒヤしていた。


「むぅ……」


 天使はなんとか片手でクレープを持ちながら、もう片方の手ではクレープに刺さっていたスプーンを持って無心になって食べている。

 天使は大丈夫そうだし、俺もいただこう。

 抹茶のパウダーがまぶされたクリームのところから一口。


「……んっ! これ、めっちゃ美味しい」


 酸っぱさと甘さが絶妙に絡み合うマスカルポーネチーズと、抹茶に抹茶を重ねた渋みがたまらない。

 口の中で和洋折衷が混ざり合って新しいスイーツの味わいを生み出していた。

 それにこの抹茶の生地もすごい。

 作ってる過程ではかなり薄めに映ったけど、こうして巻かれた状態で口に入れるとそのしっとりとしたふわもち感が最高だ。

 生地から抹茶の味がする上に、所々に顔を出す小豆やこのチーズクリーム、さらに抹茶ティラミスと抹茶パウダーでとにかく抹茶を感じられる。


 これはこれだけ人が並ぶのも頷けるな。


「美味しい! ……こんなに美味ひいスイーツ、初めて……抹茶超好きLOVE」


 "超好き"に"LOVE"までいただきました。

 全部盛りで来たな。よほど気に入ったのだろうか。


「ん……? おい雪野、鼻の頭に抹茶付いてるぞ」


 一心不乱にクレープを食べていたからか、天使の鼻に抹茶パウダーがついていて、少し緑色になっていた。


「確かに。ちょっとムズムズする」


 天使は鼻をピクピクさせた。

 そう思うなら拭けよ。


「とって?」

「い、いやいや! 自分で拭けよ!」

「でも……今はクレープ食べたいし」


 子どもかよ……!

 仕方ないな……。


 俺は抹茶クレープを片手に持ちながら反対の手でハンカチを取り出し、天使の鼻に近づける。

 こ、こんな軽率に女子の鼻を触れてもいいのだろうか。


「どうしたの?」

「な、なんでもない……次やったら自分で拭けよ」

「……やだ」

「なんでだよ!」


 天使は少し拗ねながらパクパクといつの間にかクレープを完食していた。



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