第5話 天使とお出かけ01


 俺と天使が、一緒にお出かけ?

 どうしてよりにもよって俺……。

 最初は理解できなかったが、昨日話したことを思い出すとすぐに思い当たる節があった。


 あっ、もしかして……っ!


 俺は昨日の備品確認の時のことを思い出す。

 そういえば天使は、やけにスイーツの話題に食い付いてたっけ。


「温森くん、放課後に街歩きするのが趣味って言ってた……」


 俺があの話題を出したから雪野は行きたいと思ったのか。

 それでわざわざ親の許可を取って来るなんて……偉いけど、そこまでして街歩きしたいのか?


「わたしも、街歩きしてみたい」

「わ、分かったけどさ……雪野、本当にいいのか?」

「なにが?」


 なにがって……そんなの。


「どうせ一緒に出かけるなら、女の子の友達の方がきっと楽しいと思うんだけど……」


 シンプルな意見だ。

 出会って2日の何処の馬の骨かも知らない俺みたいな男子よりも、どうせ出かけるなら同性で話が合う女子の友達の方がいいに決まっている。


「……わたし」

「ん?」

「わたし……友達、いない」

「え……でも雪野は、高校で人気者なんだから、友達がいないなんてこと」

「人気者? ……わたしが?」


 雪野は小首を傾げる。

 もしかして自覚がないのか?

 男子からも女子からも保健室には天使がいるって噂されてて、みんな保健室から帰って来ると、必ずと言っていいくらい、雪野が可愛いって話で持ちきりになるくらいなのに……。


「実は雪野って所属してるクラスに登校したことがないんだよね。だから高校では同級生とは滅多に話さない。話すのは基本的に保健室で勉強を教えてる私とだけ」

「そう、だったんですか……」


 じゃあ天使は、自分が天使って呼ばれて周りからアイドル的存在にされていることすら、知らないのかもしれない。


「やっぱり……ダメ……かな」


 雪野は俯きながら小さな声で言う。


「そう、だよね。わたし……急に眠って迷惑かけるし……」


「ちがっ! そういうことじゃない!」

「っ!」


 本当にそのつもりが無かったからこそ、少し大きな声が出てしまい、雪野はビックリした顔で俺を見ていた。


「ご、ごめん、驚かせて……」

「………」

「でもさ、俺は雪野に病気があるからとか、そんなことは決して思ってない」

「……ほんとに?」

「だって俺が心配してたのは、俺みたいなつまんない男子と一緒でもいいのかなって……雪野に悪いと思ったんだよ」

「つまらない? ……なんで?」

「それをなんでと言われても……」



「とにかく、俺なんかで良いなら、構わないってことだよ。もし眠たくなったら背負うし」

「ほんとに、温森……くん?」

「ああ。でももし寝ちゃった場合ってどうしたらいいんだ? 家に送り届けた方がいいよな?」

「あ、それなら」


 雪野は通学用のカバンから一枚の赤い手紙を取り出して俺に渡した。


「お母さんから……手紙。ここに住所とかあるから」

「お母さん?」


 俺は手紙を受け取ると、徐に読み始める。


『初めまして。男の子のお友達ができたと聞き、喜び半分不安半分な小道の母です。ご存知かもしれませんが、雪野は病気の関係でふとした瞬間に眠ってしまいます。なのでもし症状が出た際には、下記の住所まで連れてきていただけたら幸いです。もし難しいようでしたら電話番号も書いておくのでそちらにご連絡ください。すぐにお迎えに上がりますので。勝手ばかり申してしまい誠に申し訳ございませんが、それではうちの小道を何卒よろしくお願いします。』


 ご丁寧にどうも、と言いたくなるほど綺麗な字で書かれたお手紙だった。


 いいお母さんじゃないか。

 ある意味何処の馬の骨とも分からない俺みたいな男と遊ぶことも許可してくれるのも凄いが。


「さ、あんたら話はまとまったんでしょ? お出かけするならもう行った行った」

「ちょっ、佐野先生っ」


 俺たちは佐野先生によって追い出されるように保健室を出た。


 ✳︎✳︎


 高校から出たのはいいものの。


「…………」

「…………」


 やっぱり会話がねえ……。

 一緒に街歩きすることになったとはいえ、俺って天使のこと「可愛い」くらいしか知らない。

 俺の隣をゆっくり歩く天使。

 風に靡く髪はサラサラしていて、風に吹かれても全く乱れる様子はない。


 俺は天使のスピードに合わせて小さな歩幅を意識して足を進める。


「雪野、この後行きたい場所とかあるのか?」

「……分からない」


 分からないって……。

 どこか行きたいところがあるから言い出したんじゃないのかよ。


「おまかせします」


 随分と投げやりな天使だこと。

 まあ、それならちょうどいい。

 まだ17時より全然前。

 この時間帯なら俺が行きたかった場所がまだ開いてるからな。

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