第23話 議会参加

 翌日、ソンジを休ませるために午前中の議会に参加するアイザックに夏美はついていくことになった。

「行くぞ」

「あ、うん……!」

 ソンジに見送られ、アイザックに連れられて夏美の部屋を出る。

「あの、議会の間、私はどうしてればいいの?」

「黙って俺の後ろにある傍聴席に座っていればいい」

「わかった……」

(議会なんて参加するの初めてだし、なんだか緊張しちゃう……)

 議会場の前までの長い廊下を歩く。

(この宮殿すごく広そう……そういえば、私全然この宮殿のことも知らないな……)

 普段夏美が過ごしているのは、せいぜいアイザックの執務室、寝室、そして夏美とソンジの居室くらいだ。ごく狭いエリアしか移動していないが、この宮殿が果てしなく広いこともなんとなく気づいていた。

 外廊下を歩いて、隣の棟に向かう。

(時間があるときにソンジさんに案内してもらおう)

 そんなことを考えていると、ようやく議会場の前に到着した。議会場のドアは大きく、天井まであった。アイザックたちがつくと、その両脇に立っていた兵士たちがドアを押し開けてくれる。

「傍聴席はあっちだ。俺の座る背後あたりに座っておけ」

「うん」

 アイザックが中央のテーブル席につき、その背後三面に広がるように作られている傍聴席に夏美も入っていく。一番最前列の、アイザックの後ろに座る。

 他の議員たちが、不躾な視線をよこしてくるのがわかった。

(なんか……すごく敵対心みたいなの満載なんですけど……)

 アイザックの連れということで物珍しさもあるのだろう。遠慮ない視線に耐えつつ、議会が始まるのを待った。

 しばらくすると議長が入ってきて、音頭を取り議会が始まる。

「本日の議題ですが……税法見直しの件、学問所創設に関する件、諸外国との貿易関税に関する件……」

 議題がいくつか述べられていく。夏美は一応この国に関する勉強を兼ねて耳をすませる。

「税法見直しの件について、意見のある者は挙手願います。特に異論なければ、前回の大多数が否決という結果を踏まえ──」

「議長、意見があります」

 議長の話を遮ったのは、アイザックだった。

(アイザック……!?)

 それには周囲も驚いたのか、議員たちは互いに目配せをしている。議長がフラネルに意見を述べるよう促す。

「私は見直すべきだと考えております。今のままではあまりに国民の負担が重い。見直し後の数値で集計したとしても、税収は十分に賄えるはず。余分に国民を締め付けると、かえって反発を起こしかねません」

「議長、私にも意見があります」

 アイザックの意見に対して手を挙げたのは、フラネルだった。

「どうぞ」

「国民に余計な金を持たせてはならない。このあと議論される学問所の件も同様だ。教育水準をあげたところで何になる。余計な知恵をつけさせた結果、破滅した国だってあるのだ。国民の力を削ぐためにも、税法見直しはやめるべきだ」

「……その考えには反対です。教育水準を上げることで他国に劣らぬ技術力を持つことができ世界的な競争力を持つことも不可能ではありません。また、国民の意見を反映した政治運営ができる可能性も出てきます。国民が豊かに暮らせるほうが治安の維持にも役立ちます。他に否決派の方のご意見をお聞かせいただけますか」

(アイザック……そんなに考えてたんだ……)

 ソンジから政治には無関心だと聞いていたが、アイザックなりに意見を持っていたことに驚く。

(私が昨日ああ言ったから、発言しようっていう気になってくれたのかな……?)

 そうだとしたら嬉しい。夏美はアイザックが他の議員と議論をするのを聞いていた。

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