第20話 議員たちの集い

 いくつかのドレスをフィルにオーダーし、片付けが終わった頃。それまでずっとソファに腰掛けて座っていたアイザックが立ち上がった。

「おいお前、ついてこい」

「え……どこに?」

 内心、「お前」と言われたことにむっとしつつも尋ね返す。

「今日は会合がある。それにお前を連れて行く」

「会合……? それ、私がついて行っていいの?」

 夏美が尋ねると、横にいたソンジが一歩前に出る。

「アイザック様、本当に良いのですか? 私はまだまだ動けますし……」

「いや、お前は休め」

「しかし……」

「この時間、ソンジを休ませるのが決まりだ。夜間、俺の警護をしているから眠れていない。朝から昼過ぎまでソンジには暇をやっている」

「そう、なんだ……」

 確かに、ソンジはアイザックの執事でもあるが、同時に警護担当でもあると言っていた。

(ソンジさん、夜間もずっとアイザックの警護をしてるのか……それは確かに、休んでもらったほうがいいかも……)

「じゃあ、私アイザックと一緒に行きます! ソンジさんはゆっくり休んでくださいね」

「ありがとうございます」

「行くぞ」

「うん!」

 アイザックのあとをついて部屋を出る。外へ出るときに振り返ると、ソンジが深々と頭を下げていた。

 廊下は太い柱に支えられた半球型の天井、大きく光をふんだんに取り込む大窓のおかげで明るく、夏美のヒールの音が遠くまで響くようだった。

「ところで、どういう会合なの?」

「……議員同士の交流というのが名目だ」

「そういうの、参加するんだ……」

(なんか意外……議員の人たちとあまり仲良くなさそうだし、アイザックな断りそうなものだけど……)

「私は、何かすることある? どうしていればいいの?」

「お前は黙って俺のそばにいればいい。それだけだ」

「え? 挨拶とかは……」

「しなくていい。顔を出したらすぐ帰る」

「わかった……」

 とにかく郷に入っては郷に従え、数少ない味方の言うことは聞いておくべきだと夏美は口を閉ざす。

 黙ったまま暫く歩くと、つきあたりを折れた先に人で賑わった中庭があった。それぞれ手にワインや食事などを持ち、優雅に楽しんでいる。

(これが議員の会合……どちらかっていうとパーティみたいだけど……)

 きらびやかなドレスや、襟元にボリュームのある貴族服でテーブルを囲んでいる様は美しく、つい夏美も視線を奪われる。

「おい、何をしている」

 ぐいっと腕を引かれ、その驚きに振り返る。アイザックは眉を寄せ、むっとした表情を浮かべていた。

「あ、ごめん……つい見入っちゃって……」

「俺から離れるな。他の者を見ている余裕などない」

 同じことを起こすまいと思っているのか、夏美の腕を取る手は緩まない。

(アイザックは別にそんな意識ないんだろうけど……異性にされたらときめいてしまうシチュエーションだ……)

 幸いなことにアイザックは顔はいい。

(今はふんだんに、このシチュエーションを楽しんじゃおう)

 異性に腕を引かれて人混みを歩く今を、夏美は心ときめかせながら享受することにした。

 しかし、そんな時間は長く続かない。ずんずん歩いていくアイザックに、怯むことなく近づいてきた初老の男性が声をかけてくる。

「おや、ここにいらっしゃいましたか。アイザック殿」

「……フラネル議員」

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