第19話 仕立て屋
「失礼します。仕立て屋を連れてまいりました」
反射的に反応した夏美の声を聞いて、ソンジがドアを開ける。長身で若く、柔和な顔立ちをした男だった。
夏美は社会人的立ち回りの癖として立ち上がり、会釈をする。
「彼はこちらの宮殿専属仕立て屋のフィル・アクロイドです。彼女はアイザック様の客人、ナツミ様です」
「ナツミ様。これからどうぞご贔屓に」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
シェイクハンドをしているうちに、ドアのほうから何人ものメイドが大きな箱やたくさんのドレスが掛かったハンガーラックを持ってくる。フィルの指示でそれらが床にぎっしりと並べられた。
「すごい……こんなにたくさん生地があるんですね!」
「ええ。ここにないものもご希望であれば取り寄せますよ。どんなドレスがよろしいですか?」
コーラルレッドのレースからターコイズブルーのサテン生地、オーキッドグリーンのシャガード織り、バイオレッドのシャンタン生地……とフィルは一つひとつ丁寧に説明してくれる。
(でも……全くわからない……!)
色も素材も、おそらく上質なものなのだろうということはわかるし、綺麗なのもわかる。ただ、これを見てこういうドレスを作りたいですと言い出せるほどの知識がない。
「この色が好きとか、あの素材がいいとか、そういうオーダーだけでも良いのです。せっかくナツミ様がお召しになるのですから、ナツミ様が着たいものを教えてください」
(まぁ、普通に生きてたら自分のドレスなんて作れる機会、ほとんどないもんね……! ここはせっかくだし、素直に思ったこと伝えてみよう)
「色は……私、あんまり濃い色は似合わないので、薄い色の方がいいです。生地は……ドレスって、全部丈感このくらいにしなくちゃいけないんですか?」
「このくらいというのは……」
「足首まで隠れてしまうじゃないですか、これだと。でも、もうちょっと足とか腕とか胸元とか、開いてるのもいいかなって……」
どことなくソンジが気まずそうな表情を浮かべており、夏美ははたと思い当たる。
(セックスが違法な国なんだから、もしかして肌見せとかにも厳しいのでは……!?)
フィルが腕組をして悩みながら、小さく口を開く。
「なるほど……この国ではあまり見ないスタイルですね」
(ですよね……)
「ナツミ様は他国からの客人と聞いておりますが、そちらの国ではそういうスタイルが流行なのですか?」
「流行というか……文化がそもそも大きく違うというか……」
「そうですか、それは興味深い。詳しく教えてください、貴族のファッションは庶民の憧れですから、前衛的なものも取り入れていかなければ」
(やっぱり、前衛的と思われてるんだ……)
ソンジの気まずい表情の答え合わせができた。やはりこの国では、露出の多い服装は嫌煙されるのだろう。
「以前お召になっていたものも、かなりその……ねぇ? 前いらっしゃった場所のお国柄が出ると言いますか……」
「その国のお召し物があるのですか? ぜひ拝見したい」
「ナツミ様のお手元にあるかと思いますが……」
「はい、クローゼットに……」
夏美はフィルに自分がこの国に来たときに着ていた服を見せたのだった。
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