第17話 情事の翌日

 翌朝、部屋にエレナが入ってきて優しく起こされる。

「おはようございます」

「あ……おはようございます……」

 誰かに起こされたのは、実家暮らしをしていた時以来だ。だからだろうか、エレナが実家の母親と重なって見える。

「よく眠れましたか?」

「はい、もう結構ぐっすり……」

 ラブホテルで過ごしすぎたからか、夏美は環境が変わっても、枕が変わっても、どんな体勢でもだいたい眠れるのだ。

「……あ」

 そういえば、昨日はアイザックの部屋でそのまま眠りについた。

 見回してみると、たしかにアイザックの部屋である。

「エレナさん……ここ……」

「ええ、アイザック様からナツミ様の身支度をするようにと」

「くっ……」

 気恥ずかしいような、なんだか嬉しいような、母……いや、年の離れた姉に情事のことを察せられたような妙な気分である。

「さぁ、起きてお着替えをしましょう」

「はい……」

 それからベッドから起こされ、ネグリジェから美しいドレスに着替えさせられる。

(今日のドレスも可愛い……)

 やや詰まったラウンドネックに、ロングスリーブのエンパイアラインのドレスである。色は淡い桜色。ジャガードの生地が、桜色を若くみせるというよりは上品に昇華していた。

「では、次はこちらへ」

 鏡の前に座らされ、髪を櫛でとかれる。

 夏美はさすがに無言なのも何だし、と聞いてみたかったことを聞いてみることにした。

「エレナさんは、アイザックの使用人歴長いんですよね?」

「はい。アイザック様が5歳の頃からやってますよ」

「昔から、あんな感じなんですか? つっけんどんっていうか、冷たいっていうか……」

「いいえ、幼い頃から印象が少し変わりました。アイザック様のお祖父様が生きていらっしゃった頃は、もう少し無邪気な一面があったような気がいたします」

「お祖父様? その方って今は……」

「ええ、お亡くなりになりました」

「そう、なんですね……」

(おじいちゃんっ子だったのかな。私もおばあちゃんっ子だったから、ちょっと気持わかる……)

 そこまで話したところで、コンコンとドアが叩かれた。エレナがはい、と返事をすると、ドアの向こうからソンジの声がした。アイザックも一緒にいるという。

「入っていただいてもよろしいですか?」

「はい、断れないですもんそんなの」

「そうですよね。どうぞお入りください」

 エレナが声を張り上げると、部屋に二人が入ってきた音がした。

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