第16話 甘い夜の闇で
「ソンジさんはあなたとこういうことシてほしいって……」
「ソンジが? 本当にそう言ったのか?」
「うん……夜の相手をしてほしいって言ってた」
夏美がそう言うと、アイザックははぁ、と大きなため息をついた。
「……それは、おそらく一緒に寝てやれという意味だ。お前が思っている意味ではなく、言葉通りに」
「……はい?」
大人の会話で、夜をともにする、という言葉が出たなら思えないのが夏美である。
「えっと……あの、ということは……ソンジさんは、私にただの添い寝をお願いしてきてたってこと?」
「ああ」
「それを私が、勘違いして……誘っちゃったってこと?」
「そうだ」
「うっ……」
猛烈な恥ずかしさが押し寄せてくる。
「なんでソンジさん、そんな大事なこと教えてくれなかったの!」
「この国では、夜をともにすると言ったら寄り添って眠ることを指す。お前の国では、禁止されていないのか? そういう行為は」
「もちろん! 好きな人と、好きなだけそういう行為ができるよ」
「……そういえば、最初のときも妊娠を防ぐという道具があったな」
「うん、ある」
夏美はここぞとばかりに持ってきていたコンドームを取り出して見せる。
「これで、95%くらいは子どもができる確率を抑えられるの! それだけじゃなくて、性病が移るのも防げるし、いいことずくし!」
夏美はコンドームマニアでもある。日々、いいコンドームを探して探求する心も持ち合わせている。
だからこういう話には自然と熱が入るのだった。
「……それは、すごいな。こんどーむ? と言ったか。これはあの日も使っていたものだな」
「うん。使った。でもまぁ、もちろん100%に避妊できるわけじゃないけど、私がいた国ではこれを使って、愛し合う二人がセックスを楽しんでたよ。子どもを生むためってだけじゃなくて、好きな人と繋がって愛を確かめるためでもあるの。あとは、お互い一緒に気持ちよくなりたいとか……」
と、そこまで言って、夏美の中に性欲の炎がゆらゆらと燃え上がってくるのがわかった。
「ねぇ」
「なんだ」
夏美がぐいと 少しアイザックに近づいたので、アイザックが身構えた。
「幸い、あなたと私であれば罪にはならないんでしょう? だったら、これ使おうよ」
「……お前な。さっきは愛し合う二人がどうこうと言ったその口で」
「いいじゃん、愛し合ってなくても、お互いスポーツとして楽しむこともあるんだよ。それに私、あなたとの相性がすごく良かったと思うの、あなたはそう思わない?」
「……悪くはなかった」
「でしょう!? じゃあ、シよう!」
「……お前の国では、そんなにまっすぐに誘ったのか」
「え、まぁ──」
(!)
夏美の言葉尻を飲み込むように、アイザックから口付けられる。
「もっと、お前は場の雰囲気を盛り上げる方法を身に着けたほうがいいな」
さっきまでとは違う、口角を上げたちょっといじわるそうな表情。
(やだ、この人乗り気になったらこんな感じなの!?)
嬉しい戸惑いに浸っていると、夏美の髪をアイザックの手が掬い、もう一度口づけされた。
そしてそれは、次第に深く甘いものになっていく。
「んっ……」
「お前、普段からこういうことしているのか?」
「こういうことっていうのは……」
「こういうことだ」
髪を撫で、そのまま首筋にキスをされる。そして夏美の太ももをアイザックの手がするりと触れた。
内心高鳴る鼓動と、この始まりのタイミングが一番好きだ。お互いのボルテージが上がっていくのが実感できる。
「し、てる……」
「……お前の国では、これは一種の娯楽なのか?」
「娯楽といえば、娯楽かも……? あっ……」
鼓膜をアイザックの低い声が打ち、太ももを這うアイザックの大きな手と自分より高めの体温からどうしても男を感じざるを得ない。
それがまた、夏美をどうしても高揚させていく。
今度は夏美の方から首に手を回し、口づけをする。さっきまでよりももっともっと深く口付ける。
「ねえアイザック」
「なんだ」
「ソンジさんは部屋の中には見回りこないよね?」
「……来る日もある」
「えっ!」
「だが、今日はお前がいるから入っては来ないだろう。さすがに女と二人きりのところに水を差す野暮なやつではない」
「でも最初の日は……」
「あれは朝になって部屋に入ってきただけだ」
「じゃあ、シてるところは……」
「見られてない。お前の裸も見られてはいない」
そういうとアイザックが夏美のボディラインを優しくなぞった。
それだけで気分が高揚する。
「はぁ……もう、欲しいもん」
「何が」
「あなたが」
「……そういう文句は一人前だな」
アイザックにもギアが入る。二人はそれから、甘い夜の闇に堕ちていった。
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