第15話 ソンジの計画


 そろりと部屋を出ると、すぐ真横にソンジが立っていた。

「ひっ! ソ、ソンジさん……!?」

「そろそろ、出てきていただけると思っていましたよ」

 ほっほっ、と嬉しそうに笑う。

「では、アイザック様をよろしくお願いしますね」

「はい……」

 なんだか相手の親に見守られながら致すセックスみたいだと思いながらも、夏美はアイザックの部屋の前に立つ。

(よし、気合い入れて……ネグリジェも可愛いし、昨日もしたし、きっと相手も乗り気だし……)

 何も心理的な抵抗はないはず、と自分に言い聞かせて挑む。

 コンコン、と部屋をノックすると、中からくぐもった返事が聞こえた。

「あ、あの、夏美だけど」

「……なんだ」

「入れてくれない?」

「ソンジはどうした」

 迂闊に入れてくれないアイザックに、夏美は思わず近くにいるソンジに助けを求める。

 するとソンジは無理やり入ってしまえとジェスチャーをしてきた。

(い、いいの……!?)

 夏美はなんとなく周囲にソンジがいないのを確かめ、思い切ってドアを押し開けた。

 すると、ちょうど出かけようと上着を羽織っていたアイザックと目があった。

「あ! もしかして、出かけようとしてる!?」

「……」

 アイザックは分が悪いという表情で、夏美の声掛けに無言でうなずいた。

「何をしに来た」

「ま、まぁ、その、とりあえず上着は脱いだら?」

 夏美はもう、ここでモーションをかけることを心に決めていた。

 上着を脱がせて物理的距離を縮め、そこから甘い雰囲気に持っていけば良い。そもそも、単刀直入に「私が相手をしましょう」と伝えてもいいのかもしれない。

 しかし夏美は、ある程度雰囲気を大事にしたいタイプである。

 近づいて、アイザックが羽織ったブレザーとシャツの間の胸元に手を差し込む。

「……どういうつもりだ」

「どういうつもりも何も、誘ってるの」

「……」

「ほら、これ脱いで一緒にベッド行こう? 一人じゃ寝れないんでしょ、私がそばにいるから」

「別に一人では眠れるが……ここの場所で寝るのが寝るのが嫌なだけで」

「でも今日からは私がいる。ね? シて、嫌なこと忘れたら一緒にここでも寝れると思う」

 夏美がそこまで勢いをつけて言うと、アイザックは諦めたようにはぁ、と小さくため息をついた。

「……今日は外出はやめるが、お前ちょっとこっち来い」

 アイザックは上着を脱いで、自分のベッドの縁に腰掛けた。

(ああ、いよいよ始まる……!)

 もう夏美はワクワクが抑えられない。急いでアイザックが座ったベッドの端に腰掛ける。

「お前、ソンジから聞いていないのか」

「何を?」

「……まぁ、聞いていたらこんなことしないだろうな」

「ええ? だって、部屋を隣にしてくれたのも、こういう夜這い? をしやすいようにでしょ? アイザックだって乗り気なんだとすっかり……」

 夏美がそこまで言うと、アイザックは今までで一番大きなため息をついた。

「……いや……これはソンジが悪いな」

 アイザックはそう言うと、ベッドに座り、目で夏美にも座れと促してくる。

(座った瞬間、そういうことが始まる……ような空気感ではないな……怒られそうな雰囲気……)

 内心ちょっとしょんぼりしつつ、夏美はアイザックの隣に座る。

「えっと、その……悪い話……?」

「いや、お前には質問がしたいだけだ。ソンジから、そういう行為はこの国で禁止されていると聞かなかったのか?」

「……え? そういう行為って?」

「……お前がこれからしようとしていた行為だ」

「私達が出会ってすぐにやった行為?」

「……ああ」

アイザックが唸るように言う。

「禁止? え? どういうこと? 私達、ヤッたよね? 禁止っていうのは、そのマナー的に? それとも、犯罪になるってこと?」

「ああ。法律で固く禁じられている。正確に言えば、子どもを産み育てられる状況にない男女の行為が、だが」

 夏美はあまりに突然のことに、状況が読み込めない。

「えっ……じゃあ、私もあなたも、まだあの牢屋に……?」

「早まるな。王族は罰せられることはない。王族は何をしても基本的に罰せられることはない」

「あ……」

 そういえば、この男の立場を忘れていた。次期国王陛下。

「じゃあ、あなたはいいけど……王族じゃない私は?」

「王族の相手をした者も、例外が適用される場合がある。でなくては、子孫を残せないからな」

「それもそうか……」

「つくづく王族に有利な国だ」

 その言葉は、どこか自嘲しているようだった。

(なんか……アイザック、変?)

「とにかく、そのなりはやめろ」

 アイザックが着ていたブレザーを脱ぎ、夏美の肩にかけてくれた。

 その瞬間に触れた手から、また一瞬にして体温を感じてしまう。

「あの、でも……」

「なんだ?」


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