第14話 夜のお勤めいきますか


 メイドも部屋に帰し、一人で広いベッドに潜る。異世界での一日を終え、夏美は大きくため息をついた。

 この国は日本と同じく四季があり、大きな大陸の中でも海に面した端にあるという。しかし海以外は合計3つの国と境界を接しており、現在は友好国となっているものの、過去には凄惨な戦争が起きたこともあるという。その戦争で勝利の立役者となったのはアイザックの曽祖父にあたる王で、祖国を勝利に導いた英雄として祭り上げられ、王となった輝かしい人物であった。ここで初めて、王族以外の血筋の王が誕生したということでかなり注目されたらしい。しかし、曽祖父の王としての手腕は確かで、周辺国含む自国を平穏な国へと導いた。

 しかし、現在の王、すなわちアイザックの父は優柔不断で、英断ができない人間だった。良く言えば温厚、悪く言うと八方美人で、議員たちからも見下されている部分が少なからずあるという。というか、純粋に利用されているのだ。議員たちは世襲制でアイザックの父との旧友が多く、自分たちに有利な政策を考えたり、自分たちの住んでいる地区を優遇したりとやりたい放題。曽祖父よりも前の王家の血筋を復活させようとする純血派の議員もおり、彼らの反発を防ぐため、彼らもまた優遇された。牙を抜いて懐柔しようとしたのだった。それがある意味功を奏したのか、今はそれほど純血派の動きは活発ではない。

 現在の王妃は、アイザックの曽祖父よりずっと前から王家に仕えてきた家系で、その影響力も強大である。そのため、議員でも幅を利かせているのは、王妃の後ろ盾がある議員ばかりで、むしろ内政だけを考えると王よりも王妃の派閥のほうが力を持っているという具合なのだ。

『すでに王政は、王妃側の議員たちが好き勝手に運営しているようなものです。だからアイザック様も、もうほとんど政には無関心を貫いています。王妃様は……それはもうお美しいお方ではありますが、なんと言っても氷の女王と恐れられた方です。自分の目的を果たすためであれば、身内ですら数人殺すことくらい厭わないという残忍性も持ち合わせた方ですから……』

 ソンジが言っていたことを思い出す。

(国王様よりも、怖い王妃様のほうが力を持ってるなんて……国によってもそれぞれなんだな……)

 まだ、アイザックがどれほど政治に無関心なのかもわからない。実際、夏美も現代にいた頃は政治なんてほとんど興味がなかったし、今の状況が良いのか悪いのかどうかもわからないのだ。

(なんだかいろいろ考えちゃうけど、自分だって一度死んでるんだもん。なんかそれもショックと言うか、まだ信じきれてないっていうか……)

 確かにあのときの夏美は死んだと思った。あれほどの激痛に襲われたのだから無事ではあるまい。生きていたとしても大怪我か。

(まぁ、あっちの私の身を案じてる場合でもないんだけど……)

 この世界から現実には帰れるのか、死んでいたとしたら帰る先もないのか。ずっとこの世界で暮らしていくのか、それとも何か戻る方法があるのか。様々なことを繰り返し考えてしまう。

(でも……今日明日で状況が変わることもないんだし、とりあえずはここでの生活に慣れていこう。仕事三昧だったときよりはいいかもしれないし)

 もともと、深く何かを思い悩むたちではない。考えても仕方のないことは頭の中から追い出した。

(さて、夜のお勤め、行きますか!)

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