第13話 新しい知り合い
その日の夜。アイザックの部屋でぼんやりと時を過ごしていた夏美に、ソンジが声をかけてくる。
「ナツミ様、そろそろお休みになりますか?」
「あ、そうですね……」
と言っても、どこで? どうやって? 一人で? といくつもの疑問が夏美の頭を駆け巡る。
「お部屋までご案内いたします。夏美様専用のお部屋をご用意いたしましたので」
「えっ、そんな……ありがとうございます」
「では行きましょうか」
ソンジに連れられて部屋を出る。アイザックはこちらに見向きもしなかった。
廊下は昼間とは違う、たくさんのランプの灯りで光に満ちていた。
「アイザック様の客人ということで、先述の通りやや命が危ういため、……アイザック様のおはからいで特別室をご用意いたしました」
「えっ……そうだったんですか……」
あんなに無関心を装っていたのに、意外と優しいところがあるんだ、と思う。
しばらく歩き続けてから、とあるドアの前に立った。
「こちらがナツミ様のお部屋でございます。右の隣がアイザック様のご寝室、左が私の居室でございます」
「あ、そうなんですね……」
(部屋も隣なんだ……)
そう思った夏美の心を見透かしてから、ソンジが笑う。
「これが、特別の意味でございますよ。夜のお相手をするなら、ちょうど良い配置かと」
「ま、まぁ……確かに……」
夜這いをするなら、隣の部屋がいいに決まっている。
(でも、それを特別扱いとは……? 意外と、アイザックも乗り気だったりするのかな……?)
だったら話は早い、と思う。
「では、中へ入りましょう」
そう言いながら、ソンジが夏美の部屋のドアを開けた。そして中に入るよう手で促される。
「あ、ありがとうございます……うわ、広っ!」
部屋に一歩入った夏美は自分にあてがわれた部屋の広さに驚いた。
天井から大きく切り抜いたような縦長の窓、声が響いて返ってくるほどものはほとんどない。ただ天蓋付きのベッドとソファ、テーブルが置かれているだけだった。
壁際には備え付けのクローゼットがあり、それが部屋の一面となっている。それ以外の三面は言葉通り壁だけだ。天井からは大きなシャンデリアが吊るされている。
「ナツミ様」
「あっ、はい!」
部屋を見るのに夢中になっていたが、ソンジの呼びかけで我に帰る。振り返ると、いつのまにかソンジの隣にメイドらしき女性が立っていた。
「今後、ナツミ様がこの宮殿に滞在される間、彼女がお世話を致します、エレナです」
「よろしくお願い致します」
「エレナさん……よろしくお願いします。粟野夏美です」
「彼女は私と同様、アイザック様の幼少期からの数少ない使用人です。安心してお任せください」
ソンジの言葉に、エレナがにこりとして頷く。
「早速ですが、ネグリジェを用意いたしました。急でしたので、私がおろす前のものをご用意したのですが大丈夫でしょうか」
「貴族用はありませんでしたか?」
「ええ。他にも探してみたのですが、貴族の方が使われるような物の在庫がありませんでした。私のだから、少しナツミ様には大きいかもしれませんが……」
「そうですね、さすがに王妃様のを使わせるわけにはいきませんし……」
(王妃様のなんて着たら寝れないよ!)
「あ、私は何でも大丈夫ですよ! 貸していただく身分で文句も言える立場じゃないので……」
「お気遣いに感謝いたします。ではエレナ、お着替えをよろしく頼みますよ」
「はい。さぁナツミ様、寝支度を致しましょう」
「はい」
とにかく郷に入っては郷に従え、夏美は言われるがまま寝支度に取り掛かった。
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