第10話 可愛いからなんでもいいです


 それから小一時間ほど、ソンジからこの国のことを教えられた。

 目の前で地図を広げられ、法律書を開かれ、マナー教本なるものを与えられて、改めて夏美はわかったことを整理する。

 ここがまず、日本のあったあの地球とは全く異なる世界であること。当然ながら社会情勢も、治安も、法律も秩序もすべて異なる。特に今は治安が悪いため、女一人で外を歩くのは大変危険だという。

「今回はたまたま衛兵たちがその場にいましたが、誰も見ていなければ最悪殺されていたかもしれませんよ」

「そ、そうだったんですか……」

(なんて怖い世界……!)

「あと、そのような珍妙な格好で歩いてはなりません。あまり露出が多い格好をすると、売春婦だと思われてしまいます。捕まりますよ」

「は、はい、すみません……」

(そうなんだ、この国は結構肌の露出に厳しいんだな……)

「着替えを用意させますので、着替えましょうか。この部屋を出る前にお召し物を変えておかねば、怪しい目で見られます。少しお待ち下さいね」

 そう言うと、ソンジは立ち上がり部屋を出た。

 少しして、ドレスを抱えた数人のメイドとともにやってくる。

「今すぐに来賓にふさわしいドレスというのを用意できなかったので、ちょっと人のものをお借りしました。今日は居住区で過ごすから大丈夫なはず……」

 もごもごと何かを言っているが、夏美には正直良くわからない。

(なんだろう、ちょっと露出が多めとか? あんまり目につかないからとかかな?)

「では、ナツミ様のお着替えを手伝いなさい」

 ソンジがいうと、メイドたちが夏美を衝立の向こうへ連れて行ってくれる。

「お着替えをお手伝いさせいただきます。初めて見るお召し物ですので、どのように扱えばよいか、御指南いただけますか?」

「あ、これはワンピースなので、上からばっと脱げば……脱ぎますね!」

 夏美は自分でワンピースをたくし上げ、脱ぐ。メイドたちは驚いた表情をシていた。

(あ……さすがに来賓として品がなかった? 人前で脱ぐのに抵抗なさすぎるんだよね……)

「これは下着で……下着はそのままでいいですよね……?」

「はい、そのままで」

 さっきまで驚いた表情をシていたメイドたちが、夏美を不安にさせないように微笑んでくれる。

 メイドが手に持っていたドレスを広げると、プリンセスラインに裾の広がった可愛らしいデザインで淡いパープルのオーバースカート、袖はでロングスリーブ、胸元はきゅっとしまったハイネックのものだった。

(可愛い……)

 夏美も一人前に可愛いものが好きだ。

 コルセットを締められ苦しいながらも、鏡に映った自分のドレス姿に見とれてしまう。

(この世界にいる間、こんなに可愛い服着られるんだ……)

 それだけでもう嬉しい。

(治安が悪いとか、正直悪いところもあるけど、ここの中で生活していく分にはあんまり関係ないもんね……)

 すでに夏美はここでの生活に満足しかけていた。



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