第11話 素敵なドレスには秘密がある
「できました」
「とってもお綺麗です」
「あ、ありがとうございます」
メイドたちに褒められながら、衝立を出る。ソンジと目が合うと、ソンジもすぐに形相を崩して微笑んでくれた。
「大変お美しいですよ、ナツミ様」
「ありがとうございます」
「ただ……やや袖や裾が長いでしょうか。前に着ていたお方が長身だったので……」
ソンジは失礼、と言いながら夏美の袖に触れる。
「明日には専属の仕立てを呼んで、ナツミ様のお召し物を仕立てさせましょう」
「えっ、いいんですか!?」
「ええ、来賓ですので」
「わ……ありがとうございます」
「では、さっそくお勉強に入りましょうか」
「はい!」
二人はテーブルにつく。
夏美が来た国を知りたいとソンジが世界地図を広げて、いつも見ているメルカトル図法のあの地図が見られることはなかった。知らない大陸、知らない国名、知らない海洋の名前。
そのことをソンジに打ち明けると、意外にも「ではこれからこの国のことをお勉強していきましょう」と朗らかである。
「……あの」
「なんでしょう?」
「その、アイザックって人はどういう人なんですか? さっき立場が立場だから、法律が適用されないとかなんとか……」
「アイザック様のことは何もお知りでないのですか?」
「まぁ……その……」
(昨日、身体は見たけども……!)
「何も知らないようなものなので、教えてください」
「そうですな、どこから話しましょうか……」
それからソンジに教えられたのは、あの男がこの国の第二王子であること、しかし第一王子は病に倒れていて、もしかしたら玉座が転がり込むかもしれないこと、そして玉座を渡したくない周辺から命を狙われていること……。
(王子……しかも命を狙われてる……)
現実世界で普通の会社員をしていた夏美からすれば、とんでもなく遠い所まで来たもんだと思わざるを得ない。あまりにも、昨日今日で自分の置かれている状況が変わりすぎてしまった。
「ですから、私は本来あの方の執事でありますが、護衛でもあるのですよ」
「護衛……ですか……?」
こんな初老の男性に護衛が務まるのか、と思った夏美の表情を見たのだろう。ソンジは得意げな表情で、腕をまくって見せてくる。そこにはたくさんの切られた傷跡が残っていた。
「えっ!? これ全部、あの人を守ってついちゃった傷跡ですか!?」
「いえいえ、私は元軍人なのです。今となってはただの老いぼれになりましたが、それでもまだまだ現役のつもりで」
きらりと星が飛ぶようだった。おちゃめに笑ってみせたソンジに、安堵する夏美。
(もしあれが、アイザックを守ったときの傷だったら……私は一週間と生きてられないよ……)
「ご安心ください。命を狙われると言っても、刃物で襲ってくることはほとんどありません。食事に毒を混ぜられるか、移動中の汽車や馬車を橋から落とされるか……」
「いや、全然安心できませんから!!」
「ほっほっほっ」
愉快そうに笑うソンジに、どこまで本気なのかわからなくなる。
(でも……私が異世界に来ちゃったんだってことは、嫌ってほど実感する……。だってこんなの、あの世界にいたらありえないことばかりだもん……!)
夏美は頭がくらくらする気がした。
「では、次にこの国での立ち居振る舞いについて説明をしていきましょうか」
「あ、はい……」
夏美は気持ちを切り替えてソンジに向き直る。ソンジは部屋に備え付けてあった百科事典を開き、この国の成り立ちから説明してくれたのだった。
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