第9話 なんか客人として受け入れてくれるみたいです
「まぁ……自国へ帰られるのが一番よいとは思いますが……」
「現状、それはほとんど不可能だ。宮殿の外は治安が悪化している。お前が捕らえられる前にガラの悪い男たちに絡まれていたと聞いている。無防備な女一人で出歩ける国ではなくなった」
そう言うアイザックの表情は、どこか暗い表情をしていた。
「だから現実的に、お前を開放することはできない。まぁ、お前が死にたければ別だが」
「死にたくないです!!!」
「そうだろうな。俺たちとしても、他国の者を死なせたくはない。外交問題に関わるからな」
「そうですな、どのようなことが戦争の火種になるかわかりませんからな」
(たぶん、ここ異世界だからそんなことはないと思うんだけど……)
それでも、自分の身の安全を保護してもらえるなら、これ以上のことはない。
「では、どういたしましょうか。一旦処遇はこちらに預けてくれとは言ったものの、周囲にナツミ様について何も言わないままそばにいてもらっては、不評を買いかねません」
「そうだな……」
「ここは一つ、アイザック様の妻になってしまうというのはどうでしょう!」
「はい!?」
ぽん、と手を打って表情を輝かせるソンジに、思わず驚きの声が出てしまう。
「そうすれば、そばにいても不思議ではありません。アイザック様のお仕事柄、海外とのつながりはあるとみなされましょうに」
(なんの仕事してるのかわかんないけど、さすがにいきなり妻ができましたっていうのも……)
「却下だ」
「なかなか名案だと思ったのですが」
「こいつの意思はどうする」
「では、アイザック様の使用人というのは?」
「使用人は必要としていない」
「わかりました。では、客人にしましょう!」
「客人……?」
「ええ。海外からの客人ということにしておけば、あまり周囲からも詮索されずに済みましょう」
「……それもそうだな」
夏美の介在する暇もなく、二人の間で話が進んでいく。
「では、決まりですな! ナツミ様には私からお願いしたいこともございますし」
「なんだ、それは」
「アイザック様もゆくゆく知ることになりますよ」
「?」
含みをもたせた言い方に、アイザックと夏美の頭上にはてなマークが浮かぶようだった。 「まあいい。周囲にも俺の客人だと伝えておけ。干渉してくるやつには俺から釘を刺す」
「かしこまりました。ではそれで。ナツミ様、あなたは海外からの来賓です。丁寧にもてなしましょう」
「あ、ありがとうございます……」
(なんか……最初の扱いからは雲泥の差というか、すごく良くしてくれてるような……? 意外と優しいのかも、この人たち)
「それとソンジ」
「はい?」
アイザックの一段と真剣な声音に、ソンジが不思議そうな顔をする。
「そのお願いしたいことというのの間に、この女にこの国での礼儀作法を教えておけ。やっていいこと、悪いことを」
「かしこまりました」
(この人、私が不法入国したってのとまだ引きずって……!?)
「俺は稽古に行ってくる。帰ってくるまでに、どこに出しても捕まらない人間にしておけ」
「承知いたしました」
(やっぱ、優しくないかも……)
にっこりと笑って、ソンジが言うので、夏美は愛想笑いを浮かべた。
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