第26話 虫取りはロマン

 アドのおかげで生息場所がわかったから早速街を出て向かってみた。まずは簡単に獲れるミートワームを探しに川沿いだ。


 石をひっくり返せば出てくるようなものだしさっさと人数取っちゃおう、虫かごも母さんに貰ったへそくりで買っちゃったからね。困った時に使えって言われて、もう残り少ないけど友達のためなら許してくれるよ。


 ミートワームのあとはブラックバグかな、ちょっと遠いヨツメガサナギは距離こそあるけど獲るのは簡単だし最後にグリーンビーにしよう。

 夜中のほうが閉鎖された場所も見つかりにくいからね。


「このへんかな?」


 ごろんと川沿いの石を転がすと下からウネウネとでっぷり太ったミートワームが出てきたので一匹ずつ摘んで虫かごへ、人数分なら五、六匹いればいいかな。


 次はブラックバグ、森の中に入れば結構数はいるはずだから一杯獲っちゃ……いやさすがに気持ち悪いな、これも数匹でいいか。


「あれ、わあ珍しいタヅノカブトだ!」


 森に入ったら小さい頃山で見つけた甲虫を見つけた。昔暑い時期になると父さんと取りに行ってたりしたんだよなぁ、持って帰ったら母さんが叫んじゃって怒られたうえに逃がすことになったけど。


 今なら飼っても……ダメかな、宿でペット飼っちゃいけないしテイムしたわけでもないから。でもちょっと眺めてから行こう。


「ブブッ!」


「うわわ、飛んでちゃった……」


 近づいたら逃げられたよ、残念だなあんまり見れないのに。

 でもしょうがないか、気を取り直してブラックバグを集めよう。


「アドの話だとこの辺に巣が……お、一匹発見! なんだ、数が多いと言っても数匹連れてる程度――」


「ギィギィ!」


「あれ……もしかして隠れてるだけ……?」


 一匹捕まえて虫かごに入れたら草陰から数十匹が一気に出てきた。それも全部オスの個体だから、もしかしていま捕まえたのは群れ唯一のメス……みたいな?


「ギィーーー!」


「ごめんよー! 悪気はなかったからー!」


 さすがにこれだけの数に追いかけられると気持ち悪くて、さっき捕まえた一匹を放り投げるとまだ怒ってるのか襲いかかってきた。


「ほんと気持ち悪いー!」


「ギィギィギィ!」


「うひゃあ服の中に入った! やめてー動かないでぇ!」


 服の隙間に潜り込んだ一匹の感触に耐えきれず、瞬間的に熱を纏って焼き切ってしまった。温度に驚いたのか追いかけてきた群れも逃げたから、別の群れを探してオスを三匹捕まえて森を出た。


 かなりひどい目にあったけどこれで二種類目確保、あとはヨツメガサナギとグリーンビーだけだ。ちょっと歩くけど散歩だと思って楽しもう。


「お、これまた珍しいやつ発見。アイアンマンティスだっけ?」


 鉄のような硬度の鎌を持つ魔物だけど、サイズがそれほど大きくないので子供に人気なやつ。好戦的な正確だから虫相撲とかにもよくいる。


「えいえい、そりゃ」


「ガッガッ!」


 下手すれば指が切れる鎌だけど私の指なら安心安全、指先だけで軽く遊んでみると鎌を広げて応戦してきた。


「おー、君強いねぇ」


「ガッ!」


 指二本とはいえ素早く動かしてもちゃんとガードされるし攻撃しようともしている。歴戦の戦士かな?


「でもこうして、ひょいっと」 


「ガガ!」


 鎌を指で挟んでくるっと転がして私の勝ち、まだまだ若いもんには負けてられんのよ。

 でも君には竜に挑んだという栄誉ある称号を授けよう! 人間だとギルオジ含めた数人しか持ってないからすごいことだよ。


 アイアンマンティスともお別れして、しばらく歩いて日が落ち始めた頃にヨツメガサナギがいるというポイントまで着いた。

 低い木の枝を探せと言われていたから見てみると確かにサナギがぶら下がってる。


「これも人数分っと、結構数いるな。成虫になるのはもう少し涼しくなってからだねぇ」


 虫取りというと子供の遊びだけど、久しぶりにやってみるといろいろ楽しめるもんだ。新しい出会いとか生態とか知れたし、今度村に帰ったら父さんも誘ってヨナと三人でやろうかな。

 でもヨナにとっては食糧調達か、感覚違いそうだ。


「そんじゃ最後にグリーンビーいきますか、もうちょっと暗くなったら忍び込も」


 封鎖されている南の山岳まで、昔懐かしい思い出をいろいろ思い出しながら歩き出した。

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