第25話 なにもしてないのに壊れた

「あばばばばば――」


「これどうしよ、叩けば治るかな?」


 テレサが完全にバグって会話ができなくなってしまった。このままにしといても心配だし、アドが帰ってきた時なに言われるかわからない。

 なんとか修正しておかないと。


「テレサー? 別にアドと私は恋仲でもないんだよー?」


「はだだだだだ――」


 ダメだ、こっちの言葉を理解してない。

 叩くのは最終手段だからなんとか、肩でも揺さぶってみるか……やっべ、悪化した。


「目を覚ましてよー! アドに怒られるぅ!」


「おい、魔術師の工房でなにしてんだ……?」


 背後から聞き覚えのある声、ゆっくり振り返るとそこには青髪の魔術師アドが立っていた。あと多分怒ってる、だって杖持ってるし、なんとか誤魔化すか。


「……てへっ?」



 ――魔法で殴られるの痛ってぇわ、ギルオジの拳に匹敵するけど冒険者やらない?


 と、まあいつの間にか帰ってきてたアドがテレサを正気に戻そうと話しかけてるんだけどなかなか戻ってこないので、杖で額をコツンと叩いたらすぐ正気になった。


 あの程度で治るならやっときゃよかったよ、殴られ損だ。


「ア、アドさん!?」


「なにがあったんだテレサ、お前が取り乱すなんて珍しいぞ」


「アドさん私の裸を見てくださ――!」


「『眠れ』」


「くぅ……」


 判断が早すぎる。

 やっぱり冒険者のほうが向いてるんじゃないか、竜人だし勧誘してみてもいいな。断われることはわかってるけど。


 あとテレサぶっ倒れたけど大丈夫? 眠りの魔法とは言えいまの衝撃は起きるんじゃ……。


「すぴー……すぴー……」


 健やかに寝てるわぁ……こう見ると結構可愛い子だねぇ。


「お前、テレサになにした?」


「なにもしてないのに壊れた」


「それはなにかしたやつが言うんだ……!」


「ストップストップ杖が刺さるから! 魔術師の杖は刺突武器じゃないでしょ!?」


 躊躇なく杖を向けて私を突こうとしないで、鱗がない部分は普通に刺さるんだから。


 なんとか止めて落ち着いたくれたので、お茶を淹れ直して座った。


「で、お前がここにいる理由とテレサが壊れた理由はなんだ?」


「まず虫モンスターの生息場所が聞きたくて、ああこれは個人的な理由だからギルド通してないよ」


「はぁ……それは教えてやる。次はテレサのことだ」


「採取任務の護衛したこと話したら勘違いしてそうだったから、アドが私の裸見ても興奮してなかったって言ったんだけど」


 混血の竜人に興味ないってことだし、そういう勘違いされてそうだからそう伝えんだけど間違ってたかな?


「お前頭悪いだろ」


「父さんには毎日天才だって言われてたよ」


「ずいぶん甘やかす親父だったんだな……」


 そりゃもう生まれたときから甘々よ。

 甘やかしすぎて母さんに何度も怒られてたのを覚えてる。竜王とは思えないほど尻に敷かれてて村のみんなにも笑われてたぐらい。


「とりあえず誤解は俺がどうにかしておく、あと魔術師の工房は冒険者でも危険なんだ。おいそれと入るな」


「テレサがいいって言ったんだもん」


「……テレサには魔術師以外いれるなと言っておかないとな」


 監督不行き届きだー、私は悪くないぞー。


「それで、聞きたいモンスターはなんだ?」


「そうだそうだ、これに書いてあるやつ」


 ポケットからおっちゃんに貰ったメモ書きを渡すと、一通り目を通したアドが周辺の地図を持ってきた。

 使い込まれていてところどころにバツ印やそこになにがあってなにが危険かなどメモされている。


「ブラックバグはここ、数が多すぎるから気をつけろ。ミートワームは川沿いの土を掘り返せばいる、ヨツメガサナギは少し遠いがこっちだ、背の低い木の枝を見ればいい」


「ありがと、グリーンビーの巣は?」


「竜骨の近くだ、封鎖されてるんだから無理だな」


「そっか、残念」


 ま、行くけどね。

 封鎖されてるところの侵入なんて何回かしたことあるし、バレなきゃいいんだよバレなきゃ。


「理由は聞かんぞ、面倒事なら巻き込まれたくないからな」


「そんな、変なことしてるわけじゃないよ」


「まあいい。俺は研究に戻るし地図の場所をメモしたら帰ってくれ、テレサも起こさないといけないしな」


「テレサによろしくね、今度普通に遊ばせてよ」


 面白そうな子だったから、冒険者とか魔術師とか関係なく遊びたいな。変な反応ではあったけど竜人に偏見なさそうだし、ヨナやシロにも紹介してあげたい。


「こいつがいいと言えばな……これでも気難しいほうなんだ」


「そうなの? 優しかったけど」


「優秀なだけに極端でな、薬草学については天才的だがそれ以外はからっきし。どこの工房もクビになったとかで俺のとこに転がり込んできたんだよ」


 じゃあアドが支えてあげてるわけか。

 結局優しいんだよね、いろいろ周り見てくれたりしてたし。


「じゃあそろそろ行くよ、今回のお礼は……」


「この程度ことなら別にいらないぞ」


「おっぱい揉む?」


「――なっ!?」


 冗談冗談、研究者気質な魔術師の中でもかなり頭固そうだしこれぐらいやってみないと打ち解けられなさそうだからね。


「はっ! アドさんそんな貧相な胸を触るぐらいなら私の胸を!」


「貧相だなんてあんまりだぁ!」


 ひどい、テレサだってヨナと比べたらそんなに大きく――ヨナがでかすぎるだけだわ、テレサ普通に大きい方だったわ……泣きそう。

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