第22話 魔物の襲撃
ヨナが見据える先から聞こえる音、森の草木をなぎ倒すような勢いでやってきた魔物の群れが飛びだした。
「ブラックドックにゴブリン……こんなところには絶対近づかないはずなのに!」
「研究設備だけは守ってくれ! 俺は自分の身ぐらい守れる!」
「了解!」
アドが急いで杖を振って研究設備を片付けている間、ヨナと二人で前衛を固める。一体一体はそんなに強くない魔物だとしても数が多いから、抜け出されないように気を張って守らなければ。
「やばかったら火を使うけど消火は任せた!」
「森を燃やす気か!?」
「ラヴァさん、それはまずいんじゃ」
水魔法使いがいるんならまあいいだろう。あとで怒られるの私だけどね!
迫ってくる魔物を掴んでは投げ飛ばし、素早く仕留めてまた次と繰り返す。ヨナは三本の矢を同時に放つなんて芸当も見せて研究設備を守っていると、しばらくして魔物が来なくなった。
「山火事を起こさずにすんだか……」
「ふいー、大変だったぁ」
それにしてもなんで魔物の群れなんか、ネームドが暴れてるわけでもないのにな。しかもあまり強くないのがほとんどだったし臆病な魔物は竜骨を避けるはずなのに。
「ラヴァさん!」
「おっと……どしたのヨナ」
考え事をしているとヨナにローブをかけられた。
寒いわけでもないし、むしろ戦い終わりで少し体が暑いのになんでかなと思っているとヨナが小声で耳打ちしてくる。
「し、尻尾の付け根あたりが焦げてて、その……お尻が」
「えっ!?」
ローブの中に手を入れて確認すると服が焦げてて布がない。気づかなかった、ヨナがローブをかけてくれなきゃ尻丸出しで過ごすところだったよ。
ていうか着替えもないしどうしよう。
「魔物の異常行動、竜骨の力が弱まったか? これも気になるな」
「ねえアド、早いけど切り上げて帰らない? 今のことも報告しなきゃいけないし、もし何度も来たら研究にならないでしょ」
「それはそうだが……報酬は二日分になるぞ」
「それは大丈夫!」
あと一日尻丸出しよりは全然いい。ヨナのローブを借りたままでもさすがに落ち着かないからね。
最後にいくつかのドラルビーを採取して、踏み潰されてしまったテントを片付けた私達は山を降りて街へ、アドも依頼者兼目撃者としてギルドについてきてもらいサーヤさんに事情を説明してギルオジを呼んでもらった。
ギルド長の部屋に集まり、今回あったことと見たものを私とアドから説明した。
「竜骨に魔物がねぇ……」
「それも普段は臆病なやつらばかり、強い魔物が暴れてる様子もなかったよ」
「となるとテイマーか、盗賊にいりゃ弱い魔物をけしかけるなんてこともできなくもない」
「俺は魔術師ですが隷従の呪いは確認してません、テイマーといえど隷従していない魔物を操ることが出来るのですか?」
「ボスをテイムすりゃできないこともない、ネームド級だろうがな。ヨナは近くにテイマーがいたのは見たか?」
「すいません……魔物の対応に手一杯で」
熱源感知のできるヨナも情報を精査するのは本人の力量と余裕次第。慣れない群れへの対応でなにか見ていたとしても気にする余裕はなかったみたいだ。
「とりあえずこの件はA級以上の対応になる。すまねえな魔術師、あの山はしばらく封鎖だ」
「いえ、収まるまで他の研究をします。あとラヴァを新薬の実験体にしたのでその分も含めた報酬金を後ほど送りますので」
「竜人のモルモットか、魔術師からすればいい被検体だろうな。だが次からはそれも含めて依頼を出せ」
「わかりました、では失礼します」
あれぇ? 私が勝手に被験体にされたっていう重要な話がついでで終わってない?
そりゃ魔物の襲撃のほうが大変だけど私ギルドのメンバーだよね、もっと労ってよ。
「ラヴァさんはお体大丈夫ですか?」
「私の味方はヨナだけだよぉギルオジもアドもみんな薄情だぁ!」
「金もらってんだから我慢しろ。あとお前宛に荷物届いてたから宿に送っといたぞ、確認しとけ」
あ、それレイラからの耐火服だ。
早いとこ帰って着替えよう、そろそろ尻が冷たくなってきた。
「じゃあまた明日、ヨナも帰ろう」
「はい、シロさんは今日もサーヤさんのところですか?」
「それ以外選択肢がねえな。ラヴァのとこはヨナがいるし、一人で宿はとれねぇ。幸いサーヤが気に入ってるからしばらく預けるつもりだ」
ちょっと残念そう。でも私が同じ趣味(昆虫食)同士繋げてあげるからね! 食堂のおっちゃんにゲテモノ料理屋があるか聞いておくから。
「帰りに挨拶だけしていこう、話してれば慣れてくれるよ」
「はい、それでは失礼します」
「またねー」
ギルドの一階、受付にはシロとサーヤが立っていて依頼書の処理とか仕事を教えていた。
「ただいまシロ、ちょっと早いけど帰ってきたよ」
「ラヴァおかえり!」
「ちょっと所要で帰るけど仕事頑張ってね!」
「うん、頑張る、サーヤ優しい!」
嫌がってないようでよかったな。仕事も順調に覚えてるみたいだし、もう少しで一人でこなせるようになるかもしれない。
「じゃあまた明日ね」
「あ、えっと……またねラヴァ。あと、ヨ……ヨナも」
「……っ! また明日会いましょう!」
「ひぅ……!」
自信なさそうに小さく手を振るシロが、初めて名前を呼んでくれたことに感動して飛び跳ねそうなぐらい笑顔のヨナと宿に戻った。
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