第21話 採取任務二日目
ドラルビー採取二日目、私とヨナはかわりばんこに近くの洞窟や森の中を調査して、テントに近づく盗賊がいないかを確認しながら夢中で研究をするアドを眺めていた。
アドは水溶魔術師と呼ばれるだけあっていろんな素材から魔法薬を作ることが専門らしい。今回は武器に硬化能力を付与できるドラルビーに目をつけて新しい身体強化ポーション作りのためだったと聞いた。
竜人特有の身体能力とまではいかずとも、その頑丈さを再現できれば冒険の幅がもっと広がる――っていうのは建前で、実験失敗時の爆発やら衝撃から身を守りたいのが本音。
アド的には見た目の良い純血の竜人より竜の鱗を持つ混血の私達のほうが羨ましいんだってさ、やっぱり魔術師は変わり者だよ。
「ラヴァ、これ飲んでみてくれ」
「試作品? 変なこと起こらないだろうね」
「安心しろ、そういうのはチェック済みだ」
渡された細い瓶に入った赤い液体、日に照らされて少し透けて見えるそれをぐいっと飲んでみた。
「……!? かっらああい!」
めっちゃくちゃ辛かった。空に向かって火を吹いたよ、比喩とかじゃなくてマジで。
「水! 水ぅ!」
「ふむ、飲みやすさを考えると調整が必要だな」
「ぷはっ! なにやってくれてるんだよ!?」
飲み水として浄化してあるバケツに顔を突っ込んでいた私の後ろで冷静に分析してるアドに掴みかかる勢いで詰め寄ったけど、表情もかえずに淡々と試作品の入った瓶を振っている。
「体温上昇効果があると使い勝手がいいんだが、火竜が耐えられないとなると人間じゃ一口も飲めないか」
「もう、私を実験台にするな!」
「目の前に頑丈なモルモッ……竜人がいるんだから少しぐらいいだろ」
「モルモットって言ったな!?」
「検体になってくれればその分報酬も出す、ラヴァがいれば多少無理してもいいから限界がわかりやすいんだ」
「くそぅ……お金くれるならいいけど」
「みなさんお昼ご飯の準備が、ラヴァさんお顔が真っ赤ですけどどうしました?」
「うえーんヨナー、アドがいじめてくるよぉ!」
「ひゃあ! もうなにがあったんですか、とりあえずお昼ご飯ができましたので食べましょう?」
ヨナの胸に突っ込んで甘えると優しく頭を撫でてくれた。優しいわぁこの子、ヨナがいなかったら魔術師の実験体なんて耐えられないよ。
「俺はもう少し採取と調整を、先に行っててくれ」
「気をつけてくださいね、周辺は確認しましたけどなにかあったらすぐ呼んでください」
テントに戻ってヨナが作ってくれた昼飯を食べる。内容は森で取れた木の実や狩りで獲った獣の肉串で、狩人の子であるヨナはそのへんもかなり詳しかった。
「サバイバル料理ってのも悪くないね」
「ワームも数匹見つけたんですけど食べます? 肉厚で美味しいですよ」
「遠慮しておこうかな……さすがに餓死寸前じゃないと食べる気起きないかも」
ヨナは昆虫食なのでウネウネ動く大きなワームを焼いて食べてる。うーん、こればっかりちょっとわかりあえない。遭難とかして限界が来る時までは手を出さないでおこう。
「シロが見たらまた怖がるかな」
「アラクネも食べると思いますけど、お土産に少し取っておきましょうか」
「うぐ……それ持ち歩くのぉ?」
同種とか見た目の近い蜘蛛を食べられるのは怖いかもしれないけど昆虫食って点では同じか。ヨナをゲテモノ料理屋に連れて行こうと思ってたけどシロも一緒がいいかな。
「早く私もお友達になりたいです」
「ギルドのみんなもなってたからね、見境のなさが心配だけどあれで話せるようになるならまあ……」
ギルメンの反応的に若干心配だけど、なにかあったらシロ本人も強いし大丈夫なのかな。サーヤさんもついてるし、変な誘いには乗らないと思うけど一応帰ったら言っておこう。
「アドさん遅いですね、大丈夫でしょうか?」
「採取と研究に夢中だったからね、テントに入れてた研究設備も持ち出してるし」
「少し心配です、魔術師の方ですけど私達護衛ですし」
「私が見てくるよ。ヨナは待ってて、昼飯は食べてほしいし無理矢理にでも連れて来るから」
「あまり無理はしないようにしてくださいね」
立ち上がってアドのいる古竜の骨塚に行くと、研究設備の前でせっせと研究を進めているアドがいたので声をかける。
「お腹空いてないの?」
「一日食わなくても死にはしない、それよりも研究に進捗が――」
「明日はワームの丸焼きかな、飯担当のヨナは昆虫食だし」
「一度切り上げよう、すぐに戻る」
さすがの魔術師でもワームの丸焼きは食べたくないか、二日食わずに研究も出来ないだろうしアドの分も残ってるから早く食べてもらおう。
と、戻ろうとしているとテントの方からヨナが走ってきた、
「みなさん逃げて! 魔物が、大量の魔物が近づいてきています!」
「なんだって!?」
ここは古竜の骨が天然の魔物よけになる骨塚、魔物は来るはずないと思っていたけれどヨナの索敵は信用できる。
短剣を取り出して、迫りくる気配を待った。
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