第19話 魔術師と採取任務一日目
魔法街を歩く人々が少なくなり、下を向いてよくわからない研究内容をつぶやく魔術師ばかりがいる工房区へ入り依頼者のいる場所へ向かうと、そこは見覚えのある入口があった。
「ここ確かヒルニ草の納品に来た場所だよね?」
「そうですね、ここの魔術師さん薬草関係の研究をしている方なんでしょうか?」
ノックして依頼を受けた冒険者であることを伝えると、中から大きな足音が聞こえて勢いよく扉が開木出てきたのは薄い青の髪をした青年。やはり少し前に依頼の納品できた工房だったようだ。
「やっと来てくれた! 採取任務が全部キャンセルになったなんていうから困ってたんだ、早速行こう!」
「待て待て、少しは詳細の説明を――」
「急いでるんだ、道すがら説明するから行くぞ!」
研究設備の一部やら採取用の道具やらを抱えている青髪の魔術師が大急ぎで工房を出て歩き出し私達も追いかけて街を出る。
目的地が南にある山岳地帯であることは知っているけど、あそこで採れる素材でなにが必要なのかとか教えてくれないと何を警戒するかも考えられない。
相手が盗賊か魔物か、それぐらい知っておきたいから早めに説明を求めた。
「必要なのはドラルビーだ、竜の骨に生える赤い鉱石であれがないと研究が進まない」
「ってことは警戒するのは盗賊か、ドラルビーがある場所は希少鉱石があるから乱獲者もいるし」
南の山岳は隣町との境界になるからこの街のギルドと協会では管理していない。一応の警戒はあるものの道中は魔物も強いことから盗賊は採取後の冒険者や魔術師を狙う形で潜んでいたりする。
魔物に関しては採取地のドラゴンの骨が天然の魔物よけになるけど、盗賊には効かないから警戒すべきはこっちだな。山岳に入ってからはヨナがいるし避けて進めばいい。
「そういえば君名前は?」
「アレクサンドル・アドナキエル、水溶魔術師のアドって呼ばれてるからアドでいい」
「そうか、私はラヴァだ。短い間だけどよろしく」
「私はヨナといいます、よろしくお願いします」
自己紹介を終えて目の前に見える山岳に目をやると先頭を歩いていたアドが足を止めずに振り返った。
「短い間? 俺が依頼を出したのは
「えぇ!? 聞いてなかったよそれ、すぐ終わると思って半日分の装備しか持ってきてない!」
だからこんなに大荷物だったのか。
三日間の遠方任務となれば食糧やら武器の手入れのための砥石とかある程度揃えてから出なきゃいけないのに、いつもの感じで出てきてしまった。
いまから引き返すにしてもアドは急いでいるし、これはその場での食糧調達とか含めたサバイバル任務になってしまう。
「ヨナ、矢の数は?」
「戦闘になっても一日なら保つと思いますが、足りなくなったら現地で作るしか無いですね……」
「拠点用のテントもない、野宿は村を出て街に来るとき依頼だよ……」
「俺が持ってきてるぞ、夜間も研究するから少しうるさいがスペースはある」
「まあどうせ夜中も見張りをやるから交代で寝ればいいか――えっテントあるの!?」
あの今にも崩れ落ちそうな荷物の中にどんなスペースがと思ったが魔術師だ、魔法で省スペースに詰め込めるだけ詰め込んで来たんだろう。一人分と研究設備分使っても一人寝れるぐらいのスペースが余るらしく、せっかくだから使わせてもらうことになった。
「すっごい助かる、使わせてもらうよ」
「他にも研究設備を利用すれば料理もできる、使いたいなら貸してもいいが」
「準備しすぎじゃないか? 君は依頼者側だよね?」
「
ぐうの音も出ない。
所属してる私からしてもギルドメンバーは冒険者としての腕はあるが人間としては問題ばかりの連中だ。一番マトモなのはたぶんヨナかな、私も初日に宿で怒られたし。
「なんかごめん……」
「気にするな、腕は魔術師達の間でも認められてるんだ。
「あそこと比べられるとね」
街にもう一つある冒険者ギルド
「もう一つギルドがあったんですか?」
「二つ隣の区にね。あんまり近づかないほうがいいよ、あいつら亜人嫌いだから」
「わかりました、気をつけます」
錬金協会の黒歴史である亜人狩りにも関わってたなんて噂もあるし、ギルオジもギルド長の集まりで喧嘩ばかりと聞いている。たまたま出会っても無視するしあっちから来ない限りは話すこともない。
「さて、もう山岳に入るぞ。俺は戦う気がないからしっかり守ってくれ」
「任せてよ、ヨナがいるから戦闘は最小限だ」
「はい、魔物の位置はわかりますので安心してください」
熱源感知で隠れている魔物を避けて進み、どうしても避けられない魔物は私が先行して倒し安全を確保してから進む作戦で無事目的のドラルビーが生える場所、古竜の墓所と呼ばれる竜骨のたまり場に辿り着いた。
「テントを建てるから手伝ってくれないか?」
「私が手伝うよ、ヨナは周辺の警戒をお願い」
「わかりました!」
アドが出したテントは簡素だけど広く、手伝うと言っても広げて固定用の釘を少し打ち込んだだけであとは魔法でさらっと建ててしまった。
亜人が持つ能力も強いが、やっぱり利便性も考えると魔法が一番いい。ちょっとした詠唱で部屋を片付けたり物を運んだりしているのを見ると私も使えればと思ってしまう。
「研究設備は自分でやるから大丈夫だ。近くに水場があるから水を汲んできてくれると助かる」
「この辺に詳しいの?」
「本職は水魔法使いだからな、わかるんだ。新鮮でいい魔力を感じる、飲み水にもするからこれにいっぱい頼む」
また魔法で取り出されたバケツを渡されてテントを出た私は、少し進んで聞こえてきた水音を頼りに奥へと行くと綺麗な水場へ着いた。手で掬うとそのままでも飲めそうなほど透き通っていて街で飲むものよりも美味しそうに見える。
そういえば水浴びしたかったけどできてなかったな、ちょっと体を流してから戻るか。
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