第18話 S級って化物だよね

翌朝、扉のノックに目を覚ましたヨナが私を揺さぶり、まだ覚醒していない頭をふらふらさせながら扉を開けると聞いていた通りレイラが立っていた。


「早くない……?」


「日が昇れば朝だろ、お前が寝過ぎだ」


 時間間隔が農家かなんかじゃないかそれは? S級ってもっと唯我独尊的なイメージだったけどこんな人もいるんだな。そもそもE級で混血の私達に対しても普通に接してくれるし、珍しいタイプだ。


「ふぁ……とりあえず入りなよ、装備の話でしょ?」


「ああそうだ。ギルバートさんが帰ってきたらしいからネームドについては今日交渉の予定なんだが、服については話をつけてきた」


 部屋に入って座り、ヨナが顔を洗いに行くのを見ながら話を聞いた。


「話をつけてきたって、耐火服なんて高価なものどうしたんだ?」


「死にかけてた魔術師がいただろう? あいつ確か貴族の出でな、弁償させた」


「ソルマンに? あの大怪我ならまだ会えるどころか療養で寝てるんじゃ……」


「叩き起こしたが? メンバーは復帰次第昇格を意気込んでいたがあの程度の怪我で寝込むようならS級など遠い先の話だろう」


 前言撤回、S級はやっぱりやばい。

 私が見ただけでもまともに動けるようになるまでかなりかかりそうな大怪我、なんなら生きてることすら驚きだったのにあの程度って……ギルオジといい人間なのに本当に化物だ。ソルマンのやつ起こされた衝撃で死んでないだろうな。


「届くのはまだ先だがしばらくしたらこの部屋に来るよう手配してある。デザインにはこだわったつもりだが手直しも可能だ、要求があれば好きなだけ言うと良い」


 弁償してもらえるならそれに越したことはないけどなんか変な罪悪感があるな、届いてあまりにも変じゃなかったらそのままにしよう。せめてギラギラ輝いていないことを祈る。


「用はそれだけだ、私はこれから交渉前に一つ終わらせておく任務があるからな。そろそろ出る」


「わかったよ、今度来る時はできれば昼前にしてね」


「もう帰っちゃうんですかレイラさん、せっかくなら朝食を……」


 顔を洗って奥から戻ってきたヨナは即席で作ったのかサンドイッチの乗った皿を持っていて、部屋を出ようとしていたレイラは通り過ぎ様に一つ手にとって一口食べた。


「美味いな、だが食事は今度時間がある時にしよう。これでも多忙の身だから、また機会があれば」


 そしてサンドイッチを咥えたまま部屋を出たレイラは宿もすぐに出て、私達は残ったものを食べながら準備を整えて宿を出た。



「なんだこれ……?」


「昨日とはまた雰囲気が違いますね……」


 いつものようにギルドに入ると今回は受付の周りにものすごい人だかりができていた。いつも机で寝てるやつとか酒飲んでるやつも立ち上がっていて、見たこともない光景に息を呑む。


「でへへ……この年であんな子と友達かぁ……」


「なににやけてんだよ」


「お前だって鼻の下伸びてんぞ」


 任務に向かうのかすれ違った冒険者がにやけ面でそんな会話をしていたからまさかと思い近づくと、来る人来る人と握手をしながら友達だよと言っているシロがいた。


 受付嬢の制服を着てはいるけどそれはもう受付の仕事ではなく、大人気の聖女に洗礼を受けるときのような光景でまるでギルドとは思えなかった。


「似合ってますね……制服」


「現実見ようよ、昨日まで洞窟にいた子がいまじゃ聖女扱いになってる」


「ちょっと理解が追いつきません」


 私も全然理解できてない、理解しようとしたら脳が考えることを拒否しようとする。


「すごいですよシロさん、仕事の覚えはまだまだですがもうみなさんの心を掴んでます」


 隣を見ると笑顔のサーヤさんが立っていた。

 受付の人だかりというか、任務申請ではなくシロとの握手を求める人たちのせいでそもそも仕事ができないようだ。


「若い女の子に飢えてたんだねみんな、よく考えればB級以下だと私とヨナしか女いないし」


「そうですね。私やネルが受付の時はあんなに人は来なかったのに、シロさんが立った瞬間これですよ、受付嬢をなんだと思ってるんでしょうか?」


 あ、怒ってる。

 サーヤさんはギルオジを慕ってると思ってたけどこういう時は怒るんだな。顔が笑っているのが余計に怖い。


「ネルさんは結婚してるし、サーヤさんはギルオジが後ろにいるからでしょ。下手に声をかけたら殺されるよ」


「マスターは私の保護者ではないですよ?」


 ちなみにネルさんの旦那さん、会ったことはないけど騎士らしい。忙しさからいって結構重要な役割の人なんだろう。そんな人の奥さんに手を出そうと思う人は流石にいないわけで、サーヤさんも同様にギルオジと仲が良いから誰も近づかない。


「それはそうと、お二人にお願いしたい依頼がありまして」


「また? 他にもいっぱいるじゃないか、指名じゃないなら私達にも選択権を――」


「報酬がだいぶ良いんですよこれ、採取一週間分ぐらいですかね」


「内容を聞こう、話してくれたまえ」


 採取一週間分の報酬が出る任務だって? ということはつまり採取一週間分の報酬がもらえるということだ。なに言ってるかわからなくなってきたがそんな破格の任務受けない手はない。


「魔術師の方からです。どうしても欲しい素材があるけど採取地まで護衛がほしいとのことで、誰でもいいので寄越してほしいと」


「つまりそれ、ランク付け適当なわけ?」


「いえ、採取地が南の山岳でしたので安全性も考えてDかなと。お二人は警備もこなしてますし昇格検定も兼ねてみるのはと思ったんです」


「ってことはこれ終わったらD級に昇格?」


「そうなりますね、マスターからの許可は出ているので昇格できます」


 結構早いけどD級昇格か、本来なら短くても数ヶ月かかるのに破格の対応だな。でも断る理由もないしこれ受けちゃおう。


「じゃあ行ってくるよ、ヨナもいいね?」


「わかりました、頑張ります!」


 受付に近づけないからサーヤさんにあとから依頼書を処理してもらうことになり、私達は依頼者の魔術師がいる工房へ行くため東の魔法街へ向かった。




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【あとがきとお知らせ】

だいぶストックがなくなってきましたぁん。

お知らせですが新作の『夫がダメなら眷属です〜結婚断ったら女神様の眷属にさせられたけど自由に生きていいらしい〜』の投稿を始めました。

主人公がだいぶ自由で欲望全開なチートTS獣人少女です、こっちのほうが作者の趣味出てるかも。

もしよければ読んでみてください。

(純人間が主人公の話書くことないんだろうなって薄々思ってます)

https://kakuyomu.jp/works/16818023213078938346


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