第17話 枕投げする?

 用意されたのは三階の一室、応接室の隣にある客人用休憩室だった。


 ギルドに寝泊まりする冒険者は地下の部屋か、高ランクなら二階の待機室が使えるんだがシロを連れて入れる場所ではなく、二階にも誰か来るかもしれないとのことで特別に開けてもらった。


 夕方の間にヨナに着替えを取りに行ってもらい、サーヤさんも受付嬢の服を着てはいるが一応着替えを受付嬢専用の休憩に使われる部屋から持ってきている。


 流れでこうなってしまったとは言え大人数で宿以外の場所に泊まるのは初めてで、ベットの上に座りながら不覚にもわくわくしている私がいた。


「枕投げする?」


「真面目に待っていてください、そんな状況ではありません」


「でも暇だよ、ギルオジいつ帰って来るの?」


「今晩中とだけ聞いています。なので遊びに行くのはなしです……そもそも私が枕を投げてもあなた達には当たらないじゃないですか。不公平です」


 つんと顔をそらすサーヤさんだけど、これは勝ち負け的なものを気にしているのか。意外と負けず嫌いなんだな、たまに思ってたけどこの人やっぱり可愛いや。


「アラクネの方、お名前を聞いてませんでしたね。私はこのギルドで受付を担当しているサーヤといいます、よければお名前を教えてください」


「シロイロ……ラヴァはシロって呼んでくれる」


「私もシロさんと呼んでも?」


「友達だけ……ラヴァは友達だから」


 では私もと手を差し伸べたサーヤさんに、シロは怯えながらも顔を出してゆっくりと手を掴んだ。


 私と同じように握手をして友達だといえば認めてくれるみたいで、シロは慣れないギルドの一室でも少しだけ落ちつけているようだ。


「あっ、うぅ……私も、私も……」


「心配しないでヨナ、いつかわかってくれるよ。まだまだ外を知らない子だしもう少し我慢しよう」


「はい……」


 先に出会った自分よりも早くシロと触れ合っているサーヤさんを見て、手を伸ばそうとして引っ込めたヨナを慰めた。


 人間や私に対してはまだマシな対応ができるシロだけどいまだにヨナだけは近づくだけで逃げてしまう、こればっかりは私から言い聞かせてもどうにもならない問題なので時間が経つかなにかしらのきっかけがあるのも待つしか無いな。


「それにしてもすることないな、寝られないし遊んでもくれないなんて拷問だよ」


「子供じゃないんですから、ベットに貼り付けますよ?」


「本当に拷問だよっ!?」


 じりじり迫るサーヤさんはどこから取り出したのかロープを持っていて、ずるずるとベットの端まで下がりながら逃げているとギルドの扉が開く音がしてサーヤさんの視線がそっちへ向いた。


「誰かいるかー?」


「マスター! お帰りなさい、サーヤがいますよ!」


 部屋を出て一階を見ると荷物を持ったギルオジが立っていて、サーヤさんが階段を駆け下りて荷物を受け取っている。


 竜種の村に行くだけだからそんなに持ち物は無いと思っていたが、母さんにお土産でも渡されたのかな? 外向けの物なんてなにもない村だと思ってたけど、もしかしてヨナの事も話したのか。なら竜人用の服とかを持たされているんだろうな。


「ラヴァ? なんでお前そこにいる、宿はまだ契約切れてないだろ」


「いろいろあって、とりあえずこっちまで来てくれないかな」


 ギルオジを呼んで部屋に入ってもらうと、予想通りシロを見て驚愕していたが順を追って説明するために全員座って話すことになった。


 ギルオジが竜種の村に向かって数日の間にあったことを説明し、シロについてもどうして連れてきたのかを私とヨナから話し納得とはいかないまでも理解してくれた。


「俺が数日ギルドを空けただけでこんなことになるとはな……ていうかお前服はどうした?」


「怪我人の止血に使っちゃった、まあしばらくはどうにかするよ。低ランク任務しかやらないから落ち着いてれば燃えないし」


「ならいいんだが、昔みたいに裸で帰ってくるなよ……もうガキじゃねえんだからな」


「おや、子供扱いは終わりなのかな?」


 ちょっと嬉しくなって笑うとギルオジが手を小さく振りながら近づくなとジェスチャーしてきた。


「母親とは似ても似つかない奴がなに言ってんだ、あと十年は年取ってから言え」


「あんまりだっ!」


 母さんみたいな体型になる素振りもないことは気にしてるのに遠慮せずに言うな。いくら昔から一緒にいたからって言っていいことと悪いことがあるんだぞ。


「そんで問題はこっちか、シロと言ったな?」


「シロイロ……僕、どうするの?」


「見たことねえアラクネの亜種だ。本来なら迷いの亜人は里に返してやるんだが、その様子だと里から追い出されたんだろ」


「里のみんな、気持ち悪いっていうから、逃げてきた……ラヴァとサーヤが友達になってくれたから、もうどこにも行きたくない」


「面倒なことになったな、サーヤまで絡んでんのか」


「申し訳ありませんマスター、つい流れで」


 困ったように頭を掻くギルオジの後ろに立っていたサーヤさんが深く頭を下げる。


「なっちまったもんはしょうがねぇ、新種は協会への届け出が必須だがうちに置いてやる。だが冒険者には向かねえな」


「冒険者じゃなきゃどうするのさ、ギルドにただ置いとくだけなんて無理だろ?」


「サーヤ、明日一日で全部叩き込め。しばらくいないネルの代わりだ」


 ネルさんの変わり? ネルさんってことは……受付嬢やらせるつもりか!? さっき洞窟を出たばかりの亜人にギルドの受付嬢なんて勤められるわけないじゃないか。


「かしこまりましたマスター。シロさん、明日仕事について説明しますので――」


「俺が家まで護衛してやる、シロはサーヤの家に連れて行け」


「シロさんか受付嬢に……?」


「大丈夫かな、人と話すのもまだまだなのに……」


 心配だが、サーヤさんはもう友達という認識をしているから会話は大丈夫そう。だけどアラクネという人と離れた姿と暮らしをする亜人がギルドでの仕事を任されてできるものだろうか。


 現役中は世界中旅してきたギルオジが言ってるから口にだして反論はしないけど、明日ギルドに来た時大騒ぎになってたらどうするつもりなんだ。


「話は終わりだ、お前ら全員帰れ。若い女がこんな男だらけの場所にいるんじゃねえよ」


「はーい、帰ろうヨナ。シロはまた明日ね」


「ラヴァと一緒、ダメなの?」


「サーヤさんの家には押しかけられないからね、逃げたりしないでよ?」


 人間のサーヤさんはシロの速さには追いつけない。だからそう言い聞かせると頷いたシロはギルオジ達に連れられてギルドを出ていき、遅れて私達も宿へ向かった。


そういえばレイラが来るって言ってたな、装備がどうとか言ってから朝は待つか。

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