第14話 乙女の秘密を大声で……

 ギルドに入ると中はいままで以上にお祭り騒ぎと言った様子で、今日はほとんどのB級以下のメンバーが集まりネームド討伐を祝って酒を飲んでいた。


 怪我人こそいるものの頬を赤くして歌い踊る人たちだらけでいつも通りなのは受付周りだけ、中々ない光景にヨナは驚いていて私もギルドに所属してから数回はあったものの慣れない光景に少し身を引いた。


 おそらくはS級のレイラがギルドに顔を出したのもあるんだろう。上昇志向でないとはいえ憧れの存在が目の前にやってくると彼らのテンションも上がり、喧嘩ばかりの奴らですら肩を組んで笑っている。ある意味で一番ギルドが平和な日だ。


「サーヤさん、なんか前と同じような採取任務ない?」


「あらラヴァさん、昨日の今日で元気ですね。みなさんもそうですけど」


 今日の受付の担当はサーヤさんだった。

 朝はネルさんの担当が多かったから珍しい、旦那さんが久しぶりの休日だろうか。たまに旦那さんが忙しくて休みがあったら隣町に遊びに行きたいと言ってたから今頃街を出ているのかもしれない。


「働かなきゃ食べれないからね、そろそろ宿でパン以外も食べたくなってきた」


「そうですか、でも残念ながら昨日のネームド討伐の影響で採取任務がすべてキャンセルになったんですよ。Eランクでも討伐ならありますけど」


「うえ!? 勘弁してよ耐火服がないからギルドに全裸で戻ってくることになる!」


「下着は耐火仕様なのでは……?」


「パンツ一枚じゃ全裸と変わらないよ!」


「えっラヴァさん上つけてないんですか!?」


 ヨナの大声に騒いでいたギルドメンバー達が永遠にも感じるほどの静寂を作り出した。そしてぶつぶつと"マジかよ"とか"まあそうか、問題ないわな"とか"あの見た目で下は……ダメだ想像しちまう"とおっさんたちの声が聞こえてきた。


 小さい声で言ってるつもりなんだろうけど静かなうえに竜人だから聞こえてるんだよ。やめろよ泣くぞ、母さんの遺伝がほとんどなかったこの体を振り回して泣くぞ。いいのかギルドが壊れるかもしれないぞ。


 振り返って睨むとなにも聞かなかったかのように騒ぎ出したからまた受付の方を向いた。


「ヨナ、さすがに私でも恥ずかしい」


「すいません、つい……」


「コホン……討伐でもEランクですからあまり気負わないで大丈夫です。ラヴァさんもそろそろ魔物を相手にした時の体温調節を身に着けた方がいいですよ」


「うう……火竜に火を使うななんて言わないでよ。生まれた時から強い火を出す練習だけしてきたんだから」


 ギルオジにも言われてて少し前にやっと子供が触れられるぐらいに体温を下げられるようになったのに、それも下げすぎて眠くなっちゃうからほとんど意味ないんだけどさ。


 火竜にとって火を使わずに戦うっていうのはかなり難しい話だ、竜人なら一つ武器を捨てるんだからなおさらだよ。


「西の洞窟にある鬼蜘蛛の巣を潰してくれという旨の任務が来ています。突然大量発生したらしく村人の方が困っているようで、お二人にお願いできますか?」


「わかりました、ラヴァさんもいいですか?」


「わかったよ……はぁ、街に帰れなかったらどうしよ」


「大丈夫ですよ、討伐任務ですし報酬金で服なら一式買えますのでヨナさんが先に戻ってくれば――」


「全然よくないよ! それ全裸になるの前提の話じゃないか!」


 また叫ぶことになり騒ぐギルドメンバーがぶつぶつと"西の洞窟か……"とか"やめとけ下手すりゃ焼かれる"とか"見た目だけはいいんだよなあいつ"と言っているのが聞こえてきたから、絶対に服を燃やさないことを個人的な目標に目的の洞窟に向かうことになった。

 ていうか一人だけ見た目のことしか言ってないな、殴るから出てこい。



 街を出て西側は街道がなくほとんど森、村までの道も獣道にようになっていてその奥に二つほど村がある。村の先には大きな湖があって魚がよく獲れるそうだから自給自足がかなりできているらしく道の整備も時間と金がかかるという理由で放置されていた。


 そこからの依頼自体も珍しいけれど鬼蜘蛛の討伐なんてヨナにできるだろうか。数も多いし個体よっては結構でかい、私だってカラースライムとかブラックドッグみたいな魔物と違ってあまり乗り気しないし虫嫌いの冒険者なら確実に避ける依頼だけどどうだろう。


「鬼蜘蛛の巣って結構気持ち悪いけど大丈夫?」


「この辺にも巣があったんですね、でも潰しちゃうのはもったいない気がします。せっかくいっぱいいるのに」


「はい……?」


 おかしいな、どう考えても会話が噛み合っていない。むしろわくわくしているようにも見える、どうしてだ?


「ヨナ……鬼蜘蛛のことなんだと思ってる?」


「おやつですけど、もしかしてラヴァさんはお嫌いですか?」


「そっかーおやつかー、はっはっは……」


 この子蛇竜の混血だった。

 そうだよね食べるよね虫、スナック感覚でバリバリ行くんだろうね。想像したらちょっとヨナのイメージ変わってきた、美少女が笑顔で虫を食べてるシーンとか見たくない。


「ごめん火竜は鬼蜘蛛食べない、ていうかできるなら私の前で食べないで……」


「私そんな卑しん坊じゃないですよ! 任務のついでにつまみ食いなんてしません、美味しいですけど食べ過ぎるとお腹によくないですし」


 その程度の問題なんだね、鬼蜘蛛ってちょっとした毒あるんだけどね。


「ささっと行って潰しちゃおう、任務内容には大量発生の原因調査も含まれてるけどどうせ時期的なものだし主がいなくなれば減るだろ」


「ちょっとだけ捕まえて持ち帰ったりは……」


「絶対ダメ! 部屋で逃げたら寝られなくなるよ、おやつは宿にある芋で我慢しなさい!」


「はい……」


 わかりやすくしゅんとしたヨナだけどこんな一面があるなんて、見た目によらないものだな。見た目は蛇竜の竜人だからそのままなんだけど。


 今度虫料理とか出る店探してみよ。私は食べられる気がしないけどヨナは喜ぶかもしれないし、本来の食生活ってどっちかというと昆虫食だったんだろうからたまには食べさせてあげないとかわいそうだな。


「さ、着いたよ」


「ここが鬼蜘蛛の巣がある場所……我慢です我慢、任務なんですから」


 我慢と自分に言い聞かせている相棒の新しい一面が発覚したけれど、私達は西の洞窟の前まで辿り着いた。あとは中に入って主を討伐するだけの簡単な任務だ。


 私にも体温調節という課題があることだし、一度深呼吸して気持ちを落ち着かせてから洞窟に足を踏み入れた。

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