第12話 S級冒険者
村に戻ってしばらく待つと、ギルドからやってきた多くの冒険者が騒ぎながらやってきた。中にはヨナやアレンもいて、討伐任務の失敗を報告したのか医療用の大荷物を抱えている。
「おーい、これ死にかけてる。応急処置はしてあるから早く治療してやって」
「ラヴァさんは怪我してないんですか!?」
「私は大丈夫だよ。それより討伐班の捜索をしないと、ソルマンがギリギリ生きてたんだからまた森の中にいるかも」
「待て混血、この死体はネームドだろう? 討伐者はお前だな?」
振り向いて森の中にもう一度入ろうとしたら、一人の冒険者がやってきて止められた。きらびやかな鎧に輝く銀髪を靡かせる女剣士で、腰に下げた長剣は宝石のような装飾が施されていて高級そうな雰囲気がある。
よく見ると見覚えがあるような、あんまりギルドにいない人だった気がするけど確かS級の……あれ誰だっけ?
「誰か覚えてないや、とりあえずすることがあるからどいてくれる?」
「そうはいかんな。ネームド討伐者は別でやることがある、本来の討伐班捜索はすでに手配してあるから考えなくていい」
ネームド討伐者のやることって、確か報酬の受け取りとかギルドやら協会と素材の取り分の相談とかだっけ。ネームド討伐はアレンがいつも羨ましがって僕ならこうするとか、僕ならこの素材を選ぶとか言ってたから覚えてる。
正直正式に依頼を受けたわけでもないし、素材から作る武器とかもらっても使わないからめんどくさいことしか無いな。考えればトドメは私じゃないし、ソルマンにでも押し付けとけばいいか。
「ごめんね、あれ倒したの私じゃなくてあっちに転がってる魔術師。だからその話はそっちでやってといてくれる?」
「それで騙せるとでも? あの魔術師は風魔法使いだ、どう見てもお前の炎で倒しただろ。なぁ火竜の混血」
ニヤリと笑う冒険者がじりじりと私に近づいてきて、逃げられないように腕を掴もうとしてきたので一歩下がり後ろに走り出す準備をした。
「うっ……いや知らないから、私たまたま見つけただけだから、だから関係ないからー!」
「なっ!? おい誰かあの混血を捕まえろ、ネームド討伐者だぞ!」
怒ってる冒険者が私を指さして叫ぶが、周りにいる人達は信じていないようで誰も私を追いかけてくることはなかったが、唯一ヨナだけが逃げる私に追いつきそのまま宿まで走った。
「はぁ……さすがに宿までは入ってこないだろ」
「なんで逃げたんですかラヴァさん、倒したのはソルマンさんじゃないのに……」
「諸々の手続きがめんどくさいんだよ、ギルオジが帰ってきたら後処理してもらおう。それまではギルドであの人に見つからないようにしないとなぁ、でもS級だからすぐどっかいくか」
「あの方、S級なんですか? お名前とかは」
「覚えてない、そもそも顔見たのも何回目かだろうね」
そう言いつつ疲れに身を任せてベットに飛びこんだ。
ネームドはたまたま相性でどうにかなったけど、ここまで逃げてくるので疲れてしまった。久しぶりに汗もかいたし、明日あたり任務ついでに水浴びでもしにいこうかな。
「そういえば上着は?」
「止血に使った、あれ貴重な耐火服だから高いんだけどね」
今まで着ていたのは冒険者になってからの初任務で気合い入れすぎて、着ていた服が全部燃えた時にギルオジから買ってもらった服だ。ある程度の熱に耐えられるし燃えないよう魔法や錬金術で作られてるから一着でも高級品、買い直す余裕はない。
緊急時だから使ってしまったけれどだいぶもったいないことをした。ソルマンに弁償……は無理だろうな、あいつが私に金を払うところなんて想像できない。
「困ったなぁ、耐火服じゃないと討伐任務に行くたび帰りは全裸だよ……しばらくは薬草採取しかできないかも」
「それは私も困りますけど、そんなすごい服もう一度買えるんですか?」
「無理かな、ギルオジが返ってきたら相談してみるよ。それまでは昔の服でなんとかする」
「じゃあ晩御飯作りますので待っててください。朝と同じパンしかありませんけど、他に余ってるもので少しアレンジしてみます」
料理が好きなのか、家事に慣れているのか。ノリノリで取り出したパンと調味料を前に悩んでいるヨナを見ながら、今日倒した鳥の魔物ラピッドファイアを思い出しながら枕に顔を埋めて待った。
「鳥肉食べたかったなぁ……」
この思いは叶うことなく、最終的にどうやってこんな味にしたのかチーズサンドイッチ風になったパンを齧り広めのベットで二人並んで眠った。
そして翌朝――
「……だな?」
「……ります! ……だ寝てて――」
部屋の近くでなにか声が聞こえて目を覚ました。
片方はヨナの声で、もう片方は聞いたことがあるようなそうでもないような女の人の声。目を擦りながら体を起こすと寝起きには眩しいほど光を反射する鎧を着た人が立っていた。
意識をはっきりさせて思い出すと、昨日ネームドを倒した後にきたS級の冒険者だ。
「……げっ」
「わかりやすく嫌そうな顔をするじゃないか混血、E級がこんな時間まで惰眠を貪るようならこの街は平和だな、冒険者冥利に尽きるよ」
「すいませんラヴァさん、お買い物に行ったら見つかってしまって……」
後ろには申し訳なさそうなヨナが朝飯用の食材が入った籠を持って立っている。匂いからするとハムと芋かな? 今日の朝飯はマッシュポテトとハムのサンドイッチか、楽しみだ。
「よし朝飯を食べよう! 昨日は大変だったからお腹すいちゃったなー、私は顔を洗ってくるからヨナは準備してくれると――」
冒険者の横を通り過ぎようとして角をがっしりと掴まれた。
できれば腕とか肩がよかったなぁ……角は折れるとなかなか元に戻らないんだ。あと竜人の角はおいそれと掴むところじゃない、ほぼ初対面でこんなところ掴むのは子供か変態だけだ。
「いい度胸だ混血、それに私の名前も知らんようだな? これでもギルドでは知らんものはいないと自負していたんだが、私も鍛錬が足りんようだ」
「にはは……もっと頑張ろうか、あともう少しギルドに寄ってくれれば――なんかミシミシ聞こえるんだけどこれ折れない? ていうか折ろうとしてない?」
角を握り込まれて軋む音が聞こえてきた。気のせいではなく折るというより握りつぶそうとしている、さすがに見なかったことにしてやり過ごすことはできなさそうだ。
角が片方無くなるよりはマシだと思ってちゃんと冒険者と目を合わせた。
「わかったよ、ちゃんと話を聞くから離してくれ。いい加減マジで折れる」
「わかったならいい。S級のレイラ・シトラスだ、そっちの女は新人だな?」
「はっはい、ヨナと言います!」
目を向けられたヨナが焦って自己紹介をして、客人用のお茶を取りに行ったので私は寝癖を手で撫でながら部屋の隅にある椅子に座った。
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