第11話 竜王と竜狩りの英雄
ところ変わってとある草原を超えた山奥。
冒険者ギルド『
「何年ぶりだかなぁ……ラヴァを任されて以来か」
竜種の村――
本来人間や竜人以外の亜人が立ち寄ることを許されない、竜種とその番だけが住むことを許された地にギルバートは足を踏み入れた。その瞬間ギルバートに負けずとも劣らない筋骨隆々の竜人が全速力で駆け寄ってきた。
「ギィィルバァァァトォォォォ! ラヴァちゃんはどこだ!? 連れてきてるんだろうな、早く会わせろ!」
「落ち着けドラグ……先に手紙を出しただろ、ラヴァはまだ街だ」
「なんだとぉぉ!? もう限界だ、会いたい! 娘に会えない日々なんてもう懲り懲りだ! やっぱり街になんて行かすんじゃなかった!」
ため息を付いて冷たげな目でギルバートに見られていることを気にもとめず、異常なテンションで叫びながら頭を抱え地面を転がる竜人。
彼は今となってはその風格を感じないが、過去には炎帝竜王、炎獄の主、灼熱の古竜と呼ばれ大国から恐れられた伝説の火竜にしてラヴァの父、東の村をまとめる竜王、ドラグニルその人だった。
本来その体格は山のように巨大な竜だが、村で過ごすうえで人化能力により竜人と同程度の身体になっている、
「よーし決めた、街まで行ってくる」
「待て、ドラグが街に行ったら大パニックだ」
「止める気か……俺を」
肩を掴み止めるギルバートの手に熱が走る。その目はまさに竜王、睨むだけで魔獣が自ら死を選ぶとまで言われる視線がギルバートに向けられた。
「あなた、連絡もせず会いに行ってはいけませんよ。お久しぶりですギルバートさん、娘がお世話になっています」
「ロザリアさん、ご無沙汰しています。お変わりないようで……」
ドラグニルを追いかけてきた赤髪の女性、ラヴァよりも鮮明で明るい髪と目を持つこの人はラヴァの母にしてドラグニルの番である。この世で唯一竜王の寵愛を受けた稀有な魔術師で、ラヴァを身籠ってからは竜種の村を出ずに過ごしていた。
「長旅でお疲れでしょう、家の方にいらしてください。ほら行きますよあなた、ラヴァに会うのはまだ先の話です」
「いやじゃあ! ラヴァに会いに行くんじゃあ!」
「はぁ……また嫌われますよ?」
「帰らせていただきます!」
この父にしてあの娘あり、二人の問題児を長年抱えて暮らしてきたロザリアの扱いは完璧だった。嫌われるという一言で姿勢を正したドラグニルは早々に家に向かい出し、二人はゆっくりと歩き出す。
「外の人にはお出しできるものが少ないですけど、ゆっくりしていってください」
「お世話になります、変わってませんねドラグは」
「原種ですから、見た目はあんなですけどやっぱり子供らしさはありますよ」
どの種族よりも長く生きる竜の原種。ドラグニルは出会ったときから子供っぽさがありわがままで、それでいて誰よりも強く厄介な奴だったとギルバートは思い出す。
「でかいラヴァを見てる気分ですよ」
「そうですね、あの二人は昔からこんな感じです」
世間話をしながら村を進んだギルバートはドラグニルとロザリアの住む家に招かれ、中で出された茶を飲みながら話を始めた。
「してギルバート、なんの用で村まで来た? ラヴァも連れずに」
「まだ言うか……いやいい、ドラグの娘好きは昔からだもんな」
「あなた手紙読んでないんですか? ラヴァについてですよ、街でまだ冒険者を続けるからって」
「ん? あいつ人間のパーティに入ってただろう、その間は冒険者を続けるという約束だったではないか」
「それがまあ……なんていうか、その……クビになったんだ、ラヴァが」
――言いたくはなかった。
だからギルバートは限界まで言い淀んで、手紙にも書かなかった。なぜならこの話を聞いたドラグニルがどんな反応をするのか、火を見るよりも明らかだったからだ。
「ロザリア、ちょっと出掛けてくる」
「街を焼きに行くなら許しませんよ、私はあくまで人間側ですから」
立ち上がろうとしたドラグニルをロザリアが止めて座らせ、ギルバートは予想通りの反応に少し俯いた。
「はぁ……落ち着いてくれドラグ、ギルドじゃよくあることだ。あいつも受け入れてるし怒ってもない」
「うちの可愛いラヴァちゃんを人間如きが上から目線でクビなど許せるものか、焼き殺しても足り――あだっ!」
瞳孔の形が目に見えて変わり怒るドラグニルの頭をロザリアが杖で叩き落ち着かせる。なんとか落ち着いたドラグニルを見たギルバートは今回村を訪ねた本題を切り出した。
「いまラヴァは別のパーティに入ってる。だが人じゃない、蛇竜の子とだ」
「竜人か。あの子は人間との交流のために送り出したはずだが、それなら帰るのが道理だろう。なぜまだ街にいる?」
「これがまたややこしい生まれの奴でな、落し子なうえ人に育てられた。その育て親がリーヴァス・メルクライシスだったなんて話だ」
「リーヴァス……? おお、あの古狩人か! これはまた懐かしい名前を聞いた、あの死に損ないまだ生きとったか」
膝を叩きながら懐かしむドラグニルに構わず、ギルバートは話を続けた。
「それはわからんが、少なくとも十数年前までは生きてたのは確かだ。そんで子を残してどっか行っちまったらしくてな、探してんだと」
「古狩人探しならナラクに行けばいいのでは? なぜその子は冒険者ギルドに来たんです?」
「リーヴァスがどういう育て方したのか知らねえが、どっかのギルドに所属してる冒険者だと思ってたらしい。それでギルドに来たらなにかわかると街に来たんだ。気の弱そうなやつでな、しばらくうちで面倒を見ることにした」
「それがラヴァとどう関係がある? 蛇竜の子など放っておいても死なんだろ、わざわざ世話をするほどでも……」
「それが結構気に入っててな、あいつもギルド入ってまだ短い方だしもうちょっとぐらい世界見せてやりたいんだよ。ドラグは寂しいだろうが娘のためだ、許してやってくれねえか?」
問いかけられたドラグは思い詰め、喉を唸らせて考え込んでいると先にロザリアが口を開いた。
「いいですよ、その蛇竜の子と冒険者を続けさせてやってください」
「ロザリア!? 俺はまだいいとは言ってないぞ!」
「あの子はこれの血を引きながらとても人間らしく育ちました。わがままなところもありますが純粋でなんでも楽しむ、ギルバートさんのところにいれるのが一番幸せだと思います」
たまに顔を出して欲しいですけど――と言ったロザリアはそれでもなお悩むドラグニルの腰を杖でつついた。
「うぐ……まあ俺の血を引いた子だ。ロザリアの言う通り竜より人と過ごしたほうがいいのはわかるが、それでもなぁ……」
「今度連れてくるよ、蛇竜の子も落し子だから竜種の村を見せてやりたいしな」
「言ったな!? 聞いたぞギルバート、約束だ! 竜との約束だぞ、絶対に守るんだそ!」
「わかったわかった、落ち着いたらラヴァに言ってみる。あいつだってよくドラグの話をするんだ、断りはしねえって」
「楽しみですね、どんな風に育ってるかしら」
その後はギルドでラヴァがどんな活動をしていたか、湧き出るようなドラグニルの質問に答えながら旧友との時間を過したギルバートは、翌朝村を出て街へ向かう帰路についた。
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