第10話 見合った任務を受けよう

 森から出てきた冒険者を見てそれはそれは驚いた。

 生まれて初めてくしゃみをして火を吹き出し故郷の家がちょっと焦げた時ぐらい驚いた。なんたって出てきたのはよく知った顔、剣士のアレンがリーダーを務める私が元々所属していたパーティの面々だったからだ。


「うわあああ誰か助けてくれええ!」


「アレンッ!? 今回の討伐パーティってお前らだっのか!?」


「ラヴァなんでここに!? いやそんなこと言ってる場合じゃ――」


「来たぞ、うあああ!」


 森の奥から青く光る炎が森を焼き尽くしながら向かってきたのを見た私は、ヨナに覆いかぶさるよう飛び込み地面に転がった。熱線が通り過ぎ頭を上げると村にこそ火はついてなかったが村人たちが大騒ぎになっている。


「ネームド討伐班が村まで逃げてくるなんて何考えてるんだっ!」


「僕らは悪くないっ! そもそも討伐補佐だったんだ、なのにあいつらがやられてソルマンさんが逃げろって! 僕は悪くない、悪くないんだ!」


 パニックになってるのか自分は悪くないと何度も言いながら村の外まで逃げていったアレンを追いかけるパーティメンバーを捕まえた。とりあえず事情を聞かないことには動けない、なにがなんでも説明してもらわないと。


「任務にどんな支障があったのか、それと討伐対象の名前と特徴を言え!」


「A級のジオって奴のパーティが突っ込んで蹴散らされた! 残った俺達で応戦したけどまともに戦えなくて……ソルマンさんが足止めしてくれて、もう逃げるしかなくて……!」


「離してよっ! 死にたくない、まだ死にたくないの!」


「討伐対象の名前と特徴は!?」


 暴れる二人を押さえつけて情報を聞き出す。討伐班の詳細な任務内容は警備班には共有されていないからこれだけは聞いておかないと、ネームド相手に立ち向かうのは厳しい。


「ラ、ラピッドファイア……! 鳥型の魔物で、ああ足が速いって――うわあああ!」


 私の背後を見てグンダが叫び、振り返るともうそこには今回の討伐対象――ラピッドファイアが姿を表していた。


 鳥型だか飛ぶよりも走ることに特化した体、羽は青く燃え上がり足の爪で地面を深く掻いている。いまからそっちに突っ込むぞと言わんばかりに、体勢を低くして。


「ほら逃げろ。ヨナは村人の安全確保優先、可能ならギルドに応援要請」


「ラヴァさんは……!?」


「あいつ倒す、村の近くじゃ危ないけど森の奥まで引き付ければなんとかなるだろ」


「危険ですよ! サーヤさんに聞きました、ネームドは冒険者を……殺したことがある魔物だって!」


 心配してくれて叫ぶヨナに背中を向けて、腰に下げていた短刀を抜き柄を口に咥えた。


ひんじて信じて


 振り返ってそれだけ伝え、村に向かって駆けてきたラピッドファイアの横を通り過ぎざまに足を斬ると、途中で止まりこっちに視線を向けた。


 狙い通りの行動に咥えた短刀を手に持って目を合わせて、手を大きく広げてアピールする。


「こいよ、お前の足に傷をつけたのは私だぞ?」


「クルル……!」


 不満そうに喉を鳴らしたラピッドファイアを挑発して森の奥に向かって走る。予想通りプライドって概念を持つ程度に知能がある個体で、私を追いかけて走ってきた。


 追いつかれるか追いつかれないか、ギリギリの距離感を保ちながら逃げ続け村からはだいぶ離れた場所までたどり着いた。さすがに疲れてはいないが、ここまで来れば周りを気にせずに戦える。


「特徴は足が速いね……もっと大事なことを教えろよ」


「グルルル……カア!」


 ラピッドファイアが口から吐いた青い火を、全身で受け止める。熱量はそこそこ、人間なら全身火傷で即ダウンだろうな。でもまあ、私に限って火で死ぬなんて・・・・・・・ありえない。


「すぅー……はぁー……」


 燃え盛る炎の中で深呼吸をして、自分の体温が一気に上がっていくのを感じる。

 ネームドなんて大層な魔物だけど、相性が悪かったな。ていうか最初から私が倒しに行けばよかった、絶対に回ってこない任務だけど。


「さてと、今日の晩飯はターキーレッグにしよう」


「クルルガア!」


 燃える私に追い打ちをかけるためか、駆け出したラピッドファイアが足の爪で私を狙って来るが所詮は鳥の魔物。腕の鱗を貫くことはできず受け止め、足に短剣を深く突き刺して離れた。


「ギギ……!」


「走れないだろ、火力勝負でもしてみる?」


 自分の口元をトントン叩いてみると、意図が伝わったのかラピッドファイアは足を大きく開いて首をまっすぐに伸ばし、くちばしをぐわっと開いた。


「クル……グルルル……カア!」


「すぅー……はあ!」


 ラピッドファイアの青い炎と、私の口から吐かれる赤い炎がぶつかり合う。あまりの熱量に草木が燃え、一帯の木々から葉がなくなり幹が黒く焦げ始めるが、構わず各々の炎をぶつけ続け、徐々に押し始めた私の炎がラピッドファイアの体を焼き焦がした。


「クル……グ……!」


「まだ生きてるってすごいな、やっぱネームドって強いんだね……さてちゃんと討伐しないと」


 火を司る竜と火を使う魔物、火力勝負により完全な優劣がついたがそれでもまだ力尽きないラピッドファイアにトドメを刺そうとした時、倒れ動けないラピッドファイアの首にナイフが刺さった。


「ギャ……!」


「ッ!?」


 ナイフが飛んできた方向を見ると、そこには血塗れで息も絶え絶えなソルマンが立っていて、ニヤリと笑ったかと思うと空に向かって大きく笑い出した。


「ははははっ! 私が倒した、私がとどめを刺したぞ! 残念だったな混血……ネームドを倒したのはこの私だぁ!」


「お前生きてたのか、生命力がネームド並だな」


 一人で残って全員逃がしたと聞いていたから、最悪もう死んでると思っていたが満身創痍でもまだ討伐任務のことを考えていたようだ。そこだけ見れば立派な冒険者なんだけど、いかんせん性格が悪い。


 私が本来受けた任務じゃないし気にしてないけど獲物の横取りはご法度だろ。緊急時とか協力を要請された時以外他人の任務対象に手を出すのは厳罰だぞ。

 ちなみに私のは緊急時なので良しとする。


「はは……私が倒したんだ、私が、わた……」


「ああもう、放っといたら死ぬなあこれ」


 目的を達成したからか地面に倒れ込んでしまったソルマンの体に、一応持ち歩いていた回復ポーションをかけてから包帯がなかったので服で代用して止血し、ラピッドファイアの死体と一緒に引きずって村に戻ることになってしまったのだった。

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