第9話 任務前は楽しんで
管理された北の森に沿う街道の先、郊外にある小さな村。
街の外には点々といくつかの村があり、街中ではできない農業と作物を街の店に売ることで生計を立てる人達が住む場所で魔物や盗賊の危険があるものの、常駐する街の自警団のおかげである程度の安全は保たれている。
そんな場所でもネームドの討伐という一大事にはさらに警備が強化され、魔物よりも盗賊の警戒に特化している自警団ではなく冒険者が直接出向き防衛を行う。
私達も最低ランクながらちょっとした繋がりで指名をもらい、防衛を担当する村へ向かっていた。
「お待ちしておりました、お忙しいところ無理な指名を聞いてくださりありがとうございます」
「ギルドのラヴァだ。全然暇だったし呼んでくれてありがと、ちょっと仕事に困ってたんだ」
「ヨナといいます。お役に立てるがわかりませんが、精一杯頑張ります!」
「若い方に任せるしかできない村ですが、まだ時間がありますのでゆっくりしていてください。よければ村を見ていただいても、畑しかないですが」
挨拶だけのつもりだったが、昼頃の討伐任務開始まではまだ時間があるという理由で村を見て回ることになった。
言われた通り畑しかない村だけど、それにしては村人は笑顔で子供もいる。よく遊んでて竜人が珍しいのかこっちを見てる子も多い、暇だし私も少し遊ぼうかなと遠目で見ている子供たちに近づいてみた。
「竜人は珍しい?」
「始めて見た……本当に竜みたい、触っていい?」
「いいけどちょっと熱いかも、私火竜だからあっちのお姉ちゃんのほうがいいよ」
そう言って指差した先に子供たちの視線が一気に注がれ、ぎょっとしたヨナがじりじりと距離を詰める子供たちから後ずさり、私の合図で一気に走り出した私と子供から逃げ回った。
「待て待てー!」
「待ってよ竜のお姉ちゃーん!」
「なんでラヴァさんまで一緒に追いかけてくるんですかー!」
村中を走り回って逃げ込んだ末に、捕まったヨナは子供たちの遊具になり尻尾や鱗など竜人らしい部分を触られたりしているのを眺めながら時間を過ごした。結局気になったのか私のところにくる子もいたけど、やっぱり火竜の体は子供には熱かったようでできるだけ体温を落として遊んでもらった。
「元気な子供たちだったねぇ……」
「大変でした、ラヴァさんは少し眠そうですけどお疲れですか?」
「いや……触ってもいいぐらいに体温落としてるから、それで眠気が……そろそろ温めないと」
本当は火をつけてしまえば早く回復するんだけど、村の中だしゆっくりとしか体温を上げ続けることが出来ず眠気と戦っていたら、ヨナが来ていたローブをかけてくれた。体温で暖まっているローブは冷えていた私の体に気持ちよく馴染んで少しずつ眠気が引いていく。
「優しいのはいいことですけど、これから任務ですからね」
「もう私より冒険者らしくなったねぇ……ありがと」
ローブでしっかりと体を包んで数分、元の体温に戻った私は任務を始めるために立ち上がり魔物がやってくるであろう森側にヨナと陣取りネームド討伐任務開始の合図を待った。
しばらくすると森の奥から赤い光を放つ魔法が放たれ、森の中の空気が変わる。今回ネームドの討伐に挑むのは最近調子のよかったA級パーティらしく、ギルドのS級が全員出払っていることから万が一に備えろという警告はあったもののこの辺に出る程度ならネームドでも苦労はしないだろうと、今は自分の任務に集中する。
「始まったかな、こっちも来るね」
「きゃあ!」
森の中から轟音。
森全体が揺れ点々と煙が上がり、小さく揺れる木々が村側に向かってやってきた。この辺に生息してるのはカラースライムと、いても小型のブラックドッグぐらいか。群体で来なければてこずることもない相手だから二人で事足りるだろう。
「ちなみに魔物と戦う経験は?」
「……初めてです」
「じゃあデビュー戦だね、張り切っていこう!」
私は拳を構えてこれから来る魔物を備え、ヨナは弓を引いて後衛に構えた。
飛び出してくるのはどこからか、音に集中して一匹も村に入れないよう気合を入れていると――
「ガウッ!」
「上っ!?」
木に登ってきたのか枝を飛び移ってきたのか、予想外のところから飛び出したブラックドッグを仕留めるため駆け出そうとした時ヨナの矢がブラックドッグの首を貫いた。
「いっ……一匹討伐です!」
「えぇー!?」
戦えるか不安だったけど私が気づかないところから飛び出してきた魔物にこんなに早く気づくなんて……いや、ヨナは蛇竜の竜人だ。翼もなく地面で生きる蛇竜が持つ特殊能力と言えば一つ思い当たるものがある。
「熱源感知が使えるのか!」
「はっはい、なので隠れてる魔物はお任せください! 近づかれなければなんとか大丈夫そうです!」
これは頼もしい、予想より魔物の数が多そうだったけどどこから出てくるのかわかれば捌けそうだ。
指示と上空をヨナに任せて、私は下から出てくる魔物をとにかく潰すことに集中できる。ヨナは弓の技術も高いし落ち着いていれば戦力として十分、後どれぐらい数がいるかわからないけどネームド討伐の間はなにがなんでも保たせるぞ。
「右から二匹来ます!」
「わかった!」
「左に一、上は私が!」
討伐開始の合図からどれだけの時間が経っただろうか。夢中で魔物を狩り続けた私達は、向かってくるのがカラースライムだけになる頃――森の中心で起きていた轟音が迫ってきているような気がした。
「まだ終わらないのか……何やってるんだよ討伐班は!」
「もう矢が少なくなってきました。村にあるものもお借りしてますがこのままじゃ……」
魔物との戦闘が初めてで弓使いのヨナに近接戦闘は不向き、波は過ぎたけどまだこっちに来る魔物がいないとも限らないからできるだけ矢を節約してもらってるけど、体力が先に尽きそうだ。
「他の警備班は大丈夫かな、私達より数は多いはずだけどこんな長時間になるなんて……帰ったら警備全員で文句言ってやる」
足元まで来たカラースライムを潰して森の中の様子を見ると、魔物はほとんどいない。というかどんどんこちら側を避けているように見えた。
大勢狩ったから警戒がこっちにも向いたのかとも考えたが、ネームドのいる方向と村のある方向なら絶対にこっちを選んで逃げるはず。異様な雰囲気に固唾を飲んで構えると、先に反応したのはヨナだった。
「接近来ます! 数は三……えっ!?」
「どうしたの?」
「こっちに来てるの……人間です!」
あり得るはずもない報告に私の理解が追いつくより早く、森から三人の冒険者が飛び出してきた。
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