第6話 私の代わりが魔術師
商人を無事街まで送り届けた私達はヒルニ草を依頼者に納品するため魔術師工房に来ていた。
街の東側は魔法街と呼ばれる魔術師の住む地区で、様々な魔道具や魔法を使って作られた物、魔法に関する店が多く街で唯一賑やかな場所になっている。魔法に直接触れる人は魔術師しかいないから、魔法を肌で体感できる魔法街は一般人には新鮮で人気のある場所だった。
その中でもあまり人が寄り付かないのが工房地区。一般的には公開されない魔法の研究や魔法薬の開発を魔術師が行っているため、用がなければ冒険者だって近寄ろうとはしない。
「誰かいるー? ヒルニ草の納品に来たギルドの者だけど」
扉をノックして用件を言うと、しばらくして扉が開きオーバーローブを着た青年が顔を出した。薄く青い髪に深い藍色の目で、ギルオジほどではないが背が高い。魔術師は元は普通の人間だけど魔法の影響で髪色や体色が変わることがあるらしい、何人かみたことがあるがこの人は特に綺麗な色をしていると感じた。
「ヒルニ草の納品ですね、確認しますので少々お待ちください……」
なんだか眠そうだな。研究が佳境で寝てないとか魔術師にはよくあることらしいけど、体調は大丈夫なのか?
「はい……三十本確認できました。これ納品証明書なんで、ギルドの人に渡してください……はぁ」
「ありがと、ちゃんと寝るんだよ」
「ご心配どうも……ではこれで」
証明書を渡してすぐに扉を締めた魔術師は中でバタバタを足音を出して奥まで走っていったようだ。とりあえずこれで初任務は無事終わったし、ギルドに戻ったあと晩飯食べて宿に戻ろう。
「ヨナ、これを受付のサーヤさんかネルさんに渡せば報酬が貰えるよ。ギルドに戻ったら渡してきてね」
「わかりました。報酬を受け取るまでが任務ですもんね、初任務ですししっかりやり遂げます!」
報酬を受け取るまでが任務――サーヤさんに講習受けたもんな、最後の最後まで油断しないことは大事だとあのギルドの冒険者は全員教え込まれてるから、ヨナも初日から一歩冒険者に近づいたみたいだ。
あとは魔物を相手にした時が課題かな、カラースライム相手に固まって動けないぐらいだと報酬のいい討伐任務を受けるのは難しいだろう。
魔法街には他に用がないのでさっさとギルドまで戻り、若干目立ちながらも証明書を渡して報酬を貰い一度座って分け前を確認することにした。
「とりあえず半分だね、宿代はあとから計算するし一旦分けちゃってご飯行こう。昼行った食堂でいいよね?」
「はい、ありがとうございます!」
ヨナは始めて自分が稼いだであろう金を大事そうにしまい、暗くなってきたから早めに移動しようとギルドを出ると私が今朝まで所属していたA級パーティのリーダー、剣士のアレンがギルドに帰ってきたところと鉢合わせた。
隣には知らない人が立っているが、私が抜けたところを埋める新人だろうか。とりあえずもう抜けたパーティだしスルーしようと横を通ろうとした時、腕で道を塞がれた。
「挨拶もなしかラヴァ、いままで面倒見てやったっていうのに」
「……はいはいお日柄お日柄、じゃあまたね」
「なんだそのふざけた態度は! 君はいつもいつもそうやって軽い態度で、冒険者ならもっと真面目にしたらどうだ!」
真面目にって……毎日酒飲んで分け前で喧嘩してるどうしようもない奴らと一緒にいたら好きにやってても文句言われないだろ。混血だからいい目でみられてはいなかったけど、結局そういう雰囲気が好きでこのギルドにいたんだから。若いからか目標ばかり追いかけてるアレンのほうが変わってると思うんだが。
「隣のは?」
「ふん、君なんかよりよっぽど役に立つ人をスカウトしてきたんだ! 魔術師のソルマンさんをパーティに迎えて僕たちはS級を目指す!」
誇らしそうに胸を張るアレンの後ろに立つ魔術師、ソルマンは前に出て私の顔や体をまじまじと見た。
「この子が役立たずの混血ですか、すいませんねえあなたの枠を埋めてしまって。アレンさん、私の力があればすぐにでもS級に上がれますよ、これに無駄にされた時間を取り戻してあげましょう」
「女の子の体じろじろ見るなよ、ぶっ飛ばすぞ?」
「あーやだやだ口が悪い、これだから混血は。やはり人擬きの獣ですねぇ……」
わざとらしく嫌味をいうソルマンをぶん殴ってやりたかったが、ギルドの目の前でヨナを巻き込むわけにもいかず無視して通り過ぎることにした。
「ラヴァさん……」
「気にしないで。彼、強くなりたくてちょっと焦ってるんだ。S級になったとしても待ってるのはマジで強い人達だから、きっと実力差をみて帰ってくるよ」
S級になるということは所属するギルドや街どころか、国の一部を背負うだけの責任がある。だから現S級の人達はあんまりギルドにいないし、いたとしてもA級以下の人と関わることは少ない。
アレンが憧れる気持ちはわかるが焦って昇格したとしても先に待つ任務や責任には耐えきれないだろう。元SS級のギルオジも現役だった頃は毎日が苦難の日々で、今と比べれば地獄だったとぼやくことがあった。
だからこそ時間をかけて経験を積んで、その時を待ってほしかったんだけどクビになっちゃったからなぁ。行けるところまで行って、現実見るのも経験か。関わりはなくなったし放っておこ。
「さてご飯ご飯! おっちゃんの本分は夜の営業だから楽しみにしといてよ、食べ過ぎて太っちゃうよ!」
「これ以上重くはなりたくないです……!」
食堂に着くとポツポツと人がいるぐらいですぐに空いている席に座り、今日稼いだ金額と相談していくつか注文して待つと今まで通りの美味い晩飯が運ばれてきてすぐ食いついた。
この店、商業区の奥にあってあまり人は来ないけど夜にしか出ないメニューがめっちゃ美味いのだ。一時期どこの店にも入れなかった時に転がり込んだ店だったが、腹が減ってる奴は魔物だろうと食わせてやるって言ってくれてからずっと通い続けてる。
「とっても美味しいです!」
「だろー、おっちゃんとこの店は私のオアシスだよ! 本当に見つけてよかった、少しぐらい多く出すから好きなもの食べてね!」
「でも、食べ過ぎると重くなっちゃいますから」
そう言ってヨナが視線を向けた先は胸。
おかしいな、肉が腹につくという発想は蛇竜の竜人にはないんだろうか。
そうか、私は火竜だからか。火竜と蛇竜じゃ生き方も違うからね、体つきや成長速度も変わる、同じ種族でも違う竜だからそりゃそうだ。
「母さん、半分は同じ人間のはずなんだよね……」
目の前の綺麗に焼かれた肉に、フォークを深く突き刺した。
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【あとがき】
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