第5話 二度目の初任務
北の森、温暖な気候と生き生きとした草花に囲まれ栄養のある土からは生命力を向上させ治癒効果を持つ蜜を出す花、ヒルニ草を含めた薬草が群生している。
子供でも入れる安全地帯ではあるが、ヒルニ草を餌にする小型魔物の討伐と乱獲者への警戒を兼ねて冒険者ギルドと錬金術師協会が共同管理している土地であり、正式に任務を受けた冒険者でなければ立ち入ることができない。
だからこそ安心安全、冒険者デビューしたての人でも強大な魔物に恐れることなく経験が積める、いわゆる基礎の修練場のような場所だ。
「えっと、この白い花がヒルニ草で……赤いのはエビテ草、必要なのはこっちで――」
「それヒラン草だよ、似てるけど花弁の数で見分けてね」
「へっ!? き、気をつけます……!」
最初は間違えるよなぁ、草の違いなんて私もわからなかったし持ち帰ったらほとんど別の薬草だったこともある。ギルオジやらサーヤさん、ネルさんに間違えないようこってり教え込まされた。飲まず食わずで二日間、薬草本とにらめっこしてたのも懐かしい。
「必要量は三十本ぐらい、これなら夕方には戻れそうかな。私は経験あるから鑑定出さなくてもいいし、帰ったらご飯食べようよ」
「はい、でも私あんまりお金が……」
「それぐらい報酬金でどうにかなるよ。そういえば住む場所は? ギルドで寝泊まりもできるけどあんまりおすすめしないよ」
一応所属者には寝るぐらいの場所は用意してもらえるけど、ギルドで寝泊まりするような金もないチンピラ共と同室には出来ないからな。かといってこの任務の報酬じゃ一泊の宿もとれない、どうしたものか。
「考えてませんでした、どうしましょう」
「サーヤさんの家とか泊めてくれるかな……ネルさんは結婚してるから絶対ダメだろうし、うーん……あっ!」
そういえばと思いついた。
宿っていうのは一部屋で料金が発生するから常識の範囲内なら何人泊まってもかかる金は変わらない。つまり――
「私と同じ部屋に泊まりなよ! あと数週間は先払いしてあるし、その後は折半すれば大丈夫だから!」
「いいんですか!?」
「全然大丈夫。ちょっと散らかってるけど戻って掃除すれば二人寝れるし、二人一部屋なら報酬金から宿代半分出してもらえれば暮らせる」
「そうでしたら、よろしくお願いします」
これで寝泊まりする場所の問題はなくなった。
パーティでも二人なら報酬金は五対五で揉めることもないし、どうせ二人なら宿も食事も分け合えばギリギリなんとか大丈夫だろう。あとは早くランクを上げて受けられる任務を増やせば一人一部屋、他にも趣味に使える余裕だって出るからちゃんと暮らせるぞ。
「よし、もう必要数は集まったかな」
「これを依頼者の方に持っていくんですよね?」
「そうだよ、確か街の東側……魔術師の工房だね。引き渡して確認してもらってギルドに戻って報告するだけだから、早く帰ろうか」
ヒルニ草を詰め込んだ籠を持ち上げて森の出口まで向かうと、足下に珍しくカラースライムが近寄ってきた。
「ひゃあ!?」
「危なくないよ。魔物と言ってもカラースライムは薬草食だから基本襲ってこないし、色で属性さえ見分ければ弱点だって――」
足下の青いカラースライムを眺めながら説明していると、森の奥から赤、紫、緑と様々な色のカラースライムがうようよ出てきた。
こいつらは群れることをしない、特に別の色だと別属性同士反応して自滅するから近づこうともしないはずなんだけど、なにかから逃げるように近づくと危険な属性なのも気にせず森の出口を目指して移動していた。
「あっちは街道のはず、なにかいるのかな?」
「ラヴァさん行くんですか!?」
「スライムが群れて逃げるなんてなかなかないからね、気になっちゃった。別な来なくていいよ、危ないかもしれないし」
念の為先に森を出るよう言ったんだけど、出口付近に集まるカラースライムに驚いて立ち止まったヨナは私が向かおうとしている森の奥まで追いかけてきた。
森の抜けて街道近くまで来ると、老人の声と男の怒声が聞こえてきて耳を澄まし会話を盗み聞きしてみると、どうやら盗賊っぽい。護衛無しで街に向かおうとしていた商人が目をつけられたようだ。盗賊側は相当やり手のようでこの辺りには冒険者ギルドの警備もいない、放っておけば荷車は奪われ最悪商人は殺されるだろう。
「さっさとどきやがれ!」
「おやめください、これを盗られたら野垂れ死んでしまいます!」
「うるせぇ、知るかジジイ!」
少し離れた場所から街道を見下ろすと、ちょうど止めようとした老齢な商人が盗賊の大男に殴られ倒れていたのを目撃した。
だいぶ痛そうだ、骨とか折れてないだろうな。
「ラヴァさん、あれ……!」
「止めたほうが良さそうだ、ヨナはこれ持って待ってて!」
籠をヨナに渡して段差を飛び降り盗賊のところまで駆け、気づいた盗賊の振り返りざまに拳をお見舞いしてやった。
「ぐはっ!」
「やいやい盗賊共、寄って集ってジジイから奪おうなんてするんじゃないよ! 怪我したくなかったらさっさと帰ってついでに自首しろ!」
「なんだ、混血の竜人!?」
「こいつ街で噂の火竜の混血じゃねえか!?」
「知ったことか、混血如きが舐めやがって……全員で殺せ!」
勢いよく飛び出してみたが思ったよりも数がいた。目測で十人ぐらい、武器を持ってるやつもいる。
「女の子相手にこの人数はずるくないかなっ!?」
剣を構えて向かってくる盗賊の攻撃を避けて蹴り飛ばし、次に後ろにいた奴の腹に尻尾を叩きつけ、顔に向かって投げられたナイフの刃を噛み砕いて柄を投げたやつの額に向かって投げ返した。
「こいつ……強いぞ!」
「構うな、相手は一人だ。囲んで抑えつけろ!」
残った全員で私を取り囲んだ盗賊は武器を使うことをやめて腕や足に飛びついて動けないようにしてきたが、火竜の鱗は高熱を纏う。一気に体温が上がった私に素手で触れることはできず盗賊たちは離れていった。
「乙女の柔肌に無許可で触れるなよ……」
「熱っ……クソッ触れねえ!」
「すぅぅー……アアアアアアッ!」
全員捕まえて警備隊に引き渡す、というのも難しいので咆哮を上げた。これで人が来るはずだし、コソコソ隠れて襲うタイプなら逃げるだろう。
「吠えやがって駄獣が……ずらかるぞ!」
「覚えとけよ混血!」
「……ふう、おじさん大丈夫?」
倒れてる盗賊は放って逃げ出した奴らを追うとはせず、殴られた老人の様子を見たが軽めの打撲ですんでいたようなので立ち上がらせると驚いた様子でこっちを見ている。
「混血の竜人が盗賊を……いや、ありがとうございます竜人さん! 助けれていただけなければどっちにしろ死んでいました、なんとお礼をすればいいか……」
「いいよいいよ、荷車運んであげるから街まで行こう。ヨナー、この人無事だったー! 帰るよー!」
怯えたまま籠を持っていたヨナに声をかけて、一応他の盗賊はこれから来るであろう警備隊がどうにかしてくれると思い二人で怪我した商人を守りながら街に戻るのだった。
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