第4話 星の狩人

 ギルドへの再加入を行う書類を書き、ヨナとのパーティ申請書を提出した私は一度返却したギルドカードを受け取り再び冒険者としての道を歩むことになった。


 辞めたその日に同じギルドに入るなんて変な話だと思うけど、まだまだ人の街にいることができるのは嬉しいことだ。ギルオジにはちょっとだけ感謝できるかもしれない。


「ではヨナさん、ギルドでの活動とカードについて説明します。まずギルド所属の冒険者として守らなければいけないルールですが――」


 隣で最初の講習を受けるヨナを眺めながら、適当な任務を選んで最初になにをするか楽しみに考えていた。

 魔物の恐怖心を拭うために討伐任務でもいいし、混血の竜人がギルドにいてもめんどくさいことが多いから遠方への長期任務で街を離れてもいい。最低ランクのヨナは通常慣れから始めるけど私がいるし多少高いランクでも大丈夫だろと考えていくつか候補を上げていた。


「そういやヨナが冒険者になる理由ってなんなんだ?」


「確かに言ってなかったね。あの子育て親探してるんだって、その人冒険者らしくて」


 ギルドが受けた様々な任務が記されている本に目を落としながら答える。


「帰らずか、珍しいことじゃないが詳しい話は聞いてないのか? 遠方に行くときは念の為近しい人物には場所と内容を話すもんだろう」


「名前しかわからないみたい、リーヴァス・メルクライシスって言ってたけど――」


「そうか、リーヴァス・メルクライシス……リーヴァス・メルクライシス? リーヴァス・メルクライシス!?」


「なんだよそんな名前連呼して、一目惚れ?」


「星の狩人リーヴァス・メルクライシスだと!? 竜人の子がいたなんて聞いたことねえぞ!」


 焦るように私の肩を掴んだギルオジに目が回るほど揺さぶられた。やめてくれ出るもの出るぞ、部屋を消化しかけてる肉で汚したくなかったら離してくれ。


「おえ……なにギルオジその人知ってるの? うぷっ……!」


 上がってきた昼飯をギリギリの乙女心で抑え込んでなんとか胃に戻しギルオジを見ると、目を白黒させて部屋の資料を引っ張り出して古びた記事を一枚持ってきた。


「人間で唯一魔神殺しをした伝説の古狩人だよ! どこのギルドにも属してねえ男か女かもわからねえ生粋のソロだ、そもそもまだ生きてたのか!?」


「私に言われても知らないって、それに古狩人なんて無駄に長生きなんだから驚くことないだろ」


「馬鹿野郎リーヴァスは四百年前の狩人だ、いくらなんでも生きてるなんて誰も思わねえよ!」


 狩人――

 主に魔獣狩りを行う冒険者を指す言葉で、総じて全員が人間の域を超えて長命である特徴がある。結果活動を始めて百年を超えた者は『古狩人』と呼ばれ人との関わりを絶ちただひたすらに獣を狩る人形のようになるのだが、なぜ狩人がそうなるのか、人間でありながら長命なのかはわかっていない。


「そもそも古狩人が竜と子を作る意味もわからねえ、人の意識なんてとっくに失くしてるはずなんだが」


「ヨナは落し子だよ、拾われただけ。まあそれでも意味分かんないけど」


 二人でヨナの方を見ると、真剣に説明を聞いて大事なことをメモしている。古狩人に育てられた、なんてちょっと思えないぐらいしっかりとした子だ。

 リーヴァス・メルクライシス……ギルオジに話を聞いてより一層謎が深まっちゃったな、探しに行くにも情報がないしだろうししばらくは捜索はできなさそうだ。


「マスター、ヨナさんの講習が終わりました。まずはランクに見合った任務をいくつか受けていただいて――」


「サーヤさん、これ行きたいんだけど!」


 講習の終わりと同時にギルオジのところにきたサーヤさんに見繕った中で一番稼げそうな任務を見せると、ちょっと残念そうに苦笑いをされた。


「ラヴァさん……その、大変言いづらいんですけど」


「え、もしかしてもうこれ行ってる人いる?」


「その……ラヴァさんは一度自己申告で辞めてますので、ランクは最低のEからになります。なのでCランクの任務には………」


 ろくに確認せずに受け取っていた新しいギルドカードを取り出す。名前や所属ギルドは今まで通りだったが冒険者のランクを示す場所にはしっかりと最低ランクの『E』が記されていた。


「えぇー!? 私今朝までAだったよ、知ってるじゃんAランクだったって! Eランク任務じゃ食べてけないよー!」


「規則ですので。他にも二階の待機室や任務の優先権、休暇申請等Aランク待遇はなくなりますので」


「やだやだやだやだー! ギルドに入ってから頑張ったのにまたEからなんて無理だよギルオジー!」


「駄々こねるな、ギルドに入れるだけでもいいだろ。薬草採取任務が余ってるからさっさと行ってこい」


「うげっ!?」


 最低のEランク冒険者が最初にやる安全地域での薬草採取任務の依頼書を顔に貼り付けられて部屋を投げ出され、部屋を出てきたヨナと一緒に階段を降りてサーヤさんの代わりに受付に立っていたネルさんに依頼書を見せて任務に行くことを伝えにいった。


「ネルさーん、任務行ってくる……」


「薬草採取ですね、では依頼書を回収しますので動かないでください」


「いだっ!?」


 ベリっと顔に貼り付けられた依頼書を剥がされて大まかな任務の内容を説明され、ギルドを出た。


 任務内容は回復ポーションの素材になるヒルニ草の採集、魔物も少ない森に行ってある程度の数が集まったら依頼者の人に納品して報酬を受け取って終わりという超簡単な任務だ。


「初任務ですね、頑張ります!」


「私はやりあきた任務だけどね……」


 やる気を出すヨナとは裏腹に私はどのパーティにも所属できなかった間ずっとこればかりやっていた。正直飽きた、ヒルニ草なんて父さんの顔より見ていた、なんなら途中で勝手に魔物討伐してたぐらい退屈な任務だった。ちなみに魔物の素材を持ち帰ったらもちろん怒られた。


「まあ安全だしいいか……ヨナはこの辺の地理には詳しい?」


「いえ、先日街に来たばかりなので。どこに向かうんですか?」


「えーっと、ヒルニ草は北の森かな。街を出るけど近くに村もあるし魔物は少ないよ、いたとしてもカラースライムぐらいだから」


「スライムですか……だ、大丈夫ですよね! 最低ランクですしラヴァさんもいますし、安全なはず………安全、大丈夫……!」


「そんな怖がらないでって、帰ってきたら街も案内するからさっさと終わらせようね」


 だいぶ緊張しているのか安全だ大丈夫だと自分に言い聞かせているヨナがちょっと心配だが、そもそも魔物に会うことすら珍しい場所だからと気楽に森まで向かった。

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