第3話 辞めたその日に再加入

食堂を出た私達は冒険者ギルド『気高き狼の群れレギオンロボ』を目指して歩き、商業区を出てあっという間にギルドの前まで来ていた。


「ここが冒険者ギルド……!」


「緊張しなくていいよ、中にいるのはチンピラ崩れの悪人顔ばかりだけど正式な冒険者だしギルド長は顔が怖いしすぐ殴るけど優しいから」


「それはちょっと、緊張します……」


 説明が悪かったのか私の背後に隠れるように下がってしまったヨナを連れて扉を開けると、あいも変わらず昼間から飲んだり任務の分け前を話し合って殴り合いになっているどうしようもない冒険者達が目に入ったが、気にせず受付まで進んだ。


「はろはろー、さっきぶり」


「ラヴァさん!? どうして戻ってきたんですか、故郷に帰るんじゃ……!」


「ちょっと用ができちゃって、ギルオジいる?」


「どんな要件だ、お前はもう部外者だぞ……混血の竜人なんか連れて」


 呼ぶ前にギルオジがすでに階段から降りてきていた。そして混血の竜人という言葉に騒いでいた冒険者達も口を閉ざして視線をヨナに注ぐ。


「ひっ!」


「怖がらないで。まあまあギルオジ、冒険者を夢見る期待の新人、蛇竜の混血ヨナちゃんだよ!」


 これみよがしにヨナを紹介すると、大きくため息を付いたギルオジが後ろを向けと指先で伝えてきたので何かあるのかと振り返った。


「なにもないけど……?」


「こんの馬鹿野郎がああ!」


「だあああああ!?」


 振り返ってみていない隙に尻尾を掴まれて三階までぶん投げられ、叫んだ私は扉に激突して三階の廊下に転がった。さすがは竜狩りと呼ばれた伝説の冒険者、抵抗する暇もなかったよ。


「ヨナといったな、着いてこい」


「ひゃ……ひゃい!」


 ヨナを連れて三階まで上がってきたギルオジは私の胸ぐらをつかんで持ち上げギルド長の部屋に放り込み、ヨナと書類を持ったサーヤさんを対面した椅子に座らせる。

 私はというと二度投げられて立ち上がる気を失くし、ひっくり返ったまま話を聞いていた。


「まず一つ、街で暴力事件に関わったっていうのはヨナとそこの馬鹿だな?」


「馬鹿じゃないやい」


「喋るな馬鹿、床にめり込ませるぞ」


 昔父さんに会いに村に来たギルオジをからかっていた時、ブチギレさせて殴られ地面に半身埋められたのを思い出して口をつぐんだ。


「混血の竜人が暴れたなんて警備隊がうちにきた、考えられるのはラヴァしかいないからな。もううちの所属じゃないから追い返したが、なんでお前はそう問題を起こすんだ」


「ラヴァさんは悪くないんです! 私が男の人に絡まれていたのを助けてくれただけで」


 ヨナがかばってくれたおかげでギルオジの私を見る目が少しだけ柔らかくなった。わかってくれればいいんだ、私はなにも悪いことはしていない、おそらく多分十中八九殴ってもいい奴だったからね。


「ならこの話はもういい。それでだが混血の竜人でも冒険者になることは構わない、うちはどんなやつでも受け入れるからな、だが厳しいぞ?」


「も、目的があります……だから冒険者をやらせてください!」


「……それはあとで聞こう。サーヤ、書類を」


 サーヤさんが持っていたのはギルド加入用の書類だったようだ。ギルオジのやつ最初から入れるつもりだったな、厳しいとか脅しておきながら結局のところ面倒見てくれるんだろう。


「ではこちらに記入を、お名前と出身――希望の役職があったらそちらもお願いします」


「はい、ありがとうございます」


 読み書きもできるのか、いい人に拾われたんだな――なんて考えているとひっくり返ったままの私をギルオジがまたひょいと持ち上げた。


「ラヴァ、お前にいい話がある」


「人を獣みたいに持ち上げてする話が?」


「聞け。蛇竜の混血はいまあるパーティには受け入れられない、お前ならわかるだろ?」


「火竜の私が無視されるからね、薄情者しかいないよこのギルド」


「気も弱そうだ、ソロで活動させるには危ない」


 ギルオジが目を向けるヨナは書類を書き終わったが最後の血判のためにナイフで指を切る覚悟をしているところだった。かなり震えていて指にナイフを添えては離し、また添えてを繰り返している。

 わかっていたが、ヨナは冒険者としての心構えを作るまでかなり時間がかかりそうだ。


「まあそうだね、大変だろうなあ」


「お前が面倒を見ろ」


「確かに私がヨナの面倒を……はあ!?」


 私今から故郷帰るんですけど、生まれ育った地でゆっくりぬくぬく余生を過ごすんですけど、そのつもりでギルド辞めたんですけど!?


「待て待てジジイ、私はもう部外者じゃなかったのか?」


「ギルドに再加入してヨナとパーティを組め、あいつには無理にでも冒険者にならなきゃいけない理由もあるんだろ?」


「それはもう聞いてるし重要なことだったけど、父さんが許してくれる気がしない」


「そこは気にするな、俺が村まで言って説明してくる。数日ギルドを空けるがなんかあったらサーヤかネルに言って連絡を取れ」


「ひゃああああ切りすぎましたああ!」


「落ち着いてくださいヨナさん、血判用のナイフなのですぐ治りますから!」


 やっと覚悟を決めたと思えば指から大量の血を流して泣き喚いているヨナを見ていると、確かにこれは放っておけないとは思った。


 同じ混血の竜人、同種の好で助けただけの関係だったし、もう帰るつもりではあったんだけどなぁ……もう少し思い出作るものそれはそれでいいか。


「わかった、ヨナとパーティを組むよ。だからそろそろ降ろしてくれない?」


「よく言った、それでこそあの親父さんの子だ!」


 降ろされて子供のように頭を撫でられ、反射的に振りほどいく。ギルオジは昔からこうだ、いつまで経っても子供扱いしてくる。


「サーヤ、ラヴァの再加入だ。自己申告で一度辞めたからランクはヨナと合わせればいい、あとパーティ申請書も持ってきてくれ!」


「かしこまりましたマスター、では少々お待ちください」


 サーヤさんが部屋を出ていき、私はヨナの隣りに座ってギルオジと対面した。


「今度は使えよ、短剣」


「守るだけじゃダメだったからね、次は戦おうかな」


 ギルオジからギルドを辞めた時に返してもらった短剣。赤く、妖しく光る刃を眺めその熱を肌で感じ取り、新しい冒険に思いを馳せる。

 私はギルドをやめたその日に、同じギルドに再加入するという異例の行動で冒険者に返り咲いたのだった。

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