第5章97話:最終回

私は歩き出す。


一歩、


二歩、


三歩。


やがて10歩ほど歩いたところで。


私は、ふいに立ち止まった。


振り返る。


「私、お母さんに伝えたいことが、ありました」


と言いながら、クレアベルを見据みすえる。


そして、私は告げた。


「私のことを、拾ってくださって……ありがとうございました」


深く、頭を下げて、礼をした。


クレアベルが、息を飲む声がした。


「あのとき、拾ってもらっていなければ……私はあの森の中で、ウルフに食われて死んでいました」


「覚えて……いたのか」


クレアベルが、驚いたようにつぶやく。


あのときの私は0歳児だ。


普通、人間は、0歳のときの記憶なんて保持していられない。


しかし私は、ただの0歳児ではなく、中身は20歳を越えた社会人。


クレアベルに救ってもらった記憶は、ちゃんと覚えている。


私は、顔を上げる。


「はい」


と、私は肯定した。


「私がであること。あなたのひろであること……0歳だったときの記憶を、忘れてはおりません」


「……そうか」


と、クレアベルは言う。


私は、告げる。


「私は、あなたの本当の家族ではありません。でも――――私のことを、本当の娘のように育ててくれました。アイリスと同じように、愛してくれました」


アイリスが生まれても。


クレアベルは、アイリスばかりを優先して愛したりはしなかった。


私とアイリスで、待遇に差をつけたりはしなかった。


平等に、愛してくれた。


そのことに、私は、深く感謝をすべきだろう。


「だから、本当に、ありがとうございました。いつか私が立派になったら、私にできる精一杯せいいっぱい恩返おんがえしをさせてください」


いつかの未来に。


私は、クレアベルにたくさんの恩返しをしたいと思っている。


クレアベルが望むことは、なんでも叶えてあげよう。


「では。また、いつか」


と、小さく一礼をしてから、きびすを返す。


歩き始めた私に。


クレアベルが呼びかけてくる。


「一つだけ、間違っているぞ!」


私は、立ち止まる。


クレアベルが、私の背中に向かって、訴えかけてくる。


「『あなたの本当の家族ではありません』と、お前は言ったな。だが、それは違う。――――本当の家族だ。血のつながりがなくても、お前は、私たちの家族だ。それを間違えるなよ」


その言葉に、私は、胸を打たれ。


ふいに、涙がこみあげてきた。


クレアベルが言う。


「いつでも帰ってこい。お前の帰る場所は、このキトレル山だ」


私は、頬を伝いそうになる、涙をぬぐう。


震える声で、答えた。


「……はい」


そうして、歩みを再開する。


振り返ることなく、森を歩き続ける。


クレアベル。


今まで、育ててくれて……ありがとうございました。


いつか帰ってくる日まで。


お元気で。







第5章 完





――――――――――――――――――――

あとがき:

本作はここで完結となります!

ご愛読ありがとうございました!


なお、アフターストーリーを用意しておりますので、

引き続き、本作をお楽しみください!



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