第5章96話:出発

まえがき:

本作は、次回で最終回を予定しております。

(ただし最終回以後も続く予定です)


――――――――――――――――――――――――




5月の半ば。


朝。


晴れ。


山小屋の寝室。


私は、キトレルの街で買った服を着る。


白ブラウス。


ブラウスの上から羽織った茶色のケープ。


革のコルセット。


白スカート。


革のブーツ。


腰には短剣を携える。


……よし、準備万端だ。


私は、玄関を出る。


玄関前でクレアベルとアイリスが見送りにきてくれた。


「お姉ちゃん。いよいよ出発なんだね」


と、アイリスは言ってきた。


12歳になったアイリスは、私と同じぐらいの背丈に伸びている。


子どもらしい溌剌はつらつさは、なりを潜め……


すっかり落ち着き払った女の子になっていた。


普段から礼儀正しさを心がけていた私と、やたら真面目な性格をしているクレアベルの、背中を見て育ったからかもしれないね。


「はい」


と、私は答える。


アイリスは微笑んだ。


「私、お姉ちゃんには、何をやっても勝てなかったけど……お姉ちゃんが帰ってきたときには、きっと立派になった姿を見せるから、楽しみにしててね」


「アイリスは、今のままでも十分立派ですよ」


と、私は伝える。


お世辞でいったつもりはない。


アイリスは、グレたりしていないし、良識のある成長を遂げている。


今のまま、すくすく育って、大人になってもらいたいものだと、私は思う。


「気をつけてな」


とクレアベルが言ってくる。


「ちゃんとご飯を食べて、休むときはちゃんと休むんだぞ。旅は大変なことも多いからな」


「はい。気をつけます」


私は答えてから、ふいに山小屋の屋根を見上げた。


「トキちゃんも、また」


と、屋根の上にいるトキフクロウに手を振る。


トキちゃんは、


「ホーホー!」


と、応じるように鳴いた。


「それじゃ、いってきます」


と、私は伝える。


そうして我が家に背を向け、森を歩き出した。







森を進む。


勝手知ったる森だ。


迷ったり、足を止めたりせず、ぐんぐん進んでいく。


20分ほど、歩く。


そのときだった。


「おーい!」


と、背中から声がした。


クレアベルの声である。


振り返ると、クレアベルが駆けてきていた。


「……? どうしたんですか?」


と、私は尋ねる。


「お前、アイテムバッグを忘れていたぞ」


と、クレアベルが言ってから、アイテムバッグを差し出してくる。


あっ……と私は、いま気づく。


確かに、腰を見下ろすと、アイテムバッグを持参し忘れていた。


「まったく、一番大事なものを忘れるんじゃない」


と、クレアベルに叱られる。


「あはは……」


と、苦笑しながら、私はアイテムバッグを受け取った。


アイテムバッグを腰に巻きつける。


「持ってきてくださって、ありがとうございます」


「ああ」


と、クレアベルは言った。

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