第5章89話:錬金術

冬が過ぎた。


春がやってくる。


私は13歳になる。






ある春の日。


昼。


山小屋のリビング。


三人でテーブルに着く。


クレアベルは、私とアイリスに言った。


「今日はお前たちに錬金術について教えようと思う」


錬金術。


道具製作の魔法だ。


「生きていくにあたって必要な道具が、いつもそばにあるとは限らない。だが錬金術があれば、自作することも可能になる」


クレアベルは説明する。


「錬金術は、魔法と同じで、誰でも習得できるものだ。私もできるぐらいだからな」


そう述べてからクレアベルは、リビングのすみのアイテムバッグを持ってくる。


竹と糸を取り出し、テーブルに並べる。


両手をかざし、クレアベルは目を閉じて集中した。


次の瞬間。


竹と糸が発光し……一つの形を成した。


竹竿たけざおである。


「とまあ、この通りだ。錬金術は、素材さえあれば完成品を錬成できる」


すごい! とアイリスがはしゃぐかと思ったが、今回は静かだ。


一緒に生活する中で、クレアベルは何度も錬金術を使っている。


それを普段から目撃しているので、特にアイリスも驚くことはないのだろう。


「じゃあ素材を渡すからやってみろ。同じように竹竿を作るんだ」


クレアベルが、竹と糸を二人ぶん渡してきた。


私たちは手をかざす。


クレアベルは解説する。


「やり方としては、完成品を思い浮かべて、加工や変形をしていくイメージかな」


「やってみます」


と私は告げた。


目を閉じる。


竹竿の完成形をイメージする。


その完成形に向かって加工、変形をおこなうイメージで……


「……」


できない。


なんにも起こらない。


「はは。さすがにセレナでも、すぐに習得するのは無理だ。最初の錬成に成功するのに、一ヶ月以上かかるのが普通だからな」


「そうなんですか?」


「ああ。だから、すぐにできなくてもいいんだ。地道にやれば」


ふむ、なるほど。


でも……


私にはまだ、奥義がある。


知ってるよ?


こういうとき、私がどうすればいいのか。


そう。


チョコレートを思い浮かべるんだ!


チョコレート魔法で、チョコを生成したり、変形したりするイメージで……


竹竿を錬成!!


「あ、できた」


ほんとにできてしまう。


竹と糸が、一本の竹竿へと変わっている。


チョコレート魔法、おまえ何者だ?


魔法習得のアシスタントか?


いずれにせよ、チョコレートは全てを解決することを、またもや証明してしまったようだ。


「……」


クレアベルが目を丸くして、絶句していた。


ややあって、クレアベルは我に返る。


「さすがだな、セレナ……こういう難しい魔法をすぐに習得できるのは、お前の長所だ……」


そう言ってからクレアベルは、


「私は2ヶ月もかかったんだがな……」


と、遠い目をしながらつぶやいていた。


とりあえず、私は錬金術を習得することができた。


これでいろいろ作れるぞ!








錬金術の訓練は引き続きおこなった。


結果。


私は、ナイフや石製品などを自作できるようになった。

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