第5章

第5章88話:冬の暮らし

―――第5章――――




季節が過ぎる。


私の中で、旅に出たいという思いが膨らんでいた。


以前、私はライネアさんから騎士団に誘われ、断った。


では、自分は何をしたいのだろうかと、考えたのだ。


(旅……いいかもね)


異世界を旅して回る。


そういう人生に強くあこがれた。


(少しずつ、旅立ちに向けて準備をしていこうかな)


と私は思った。









冬になる。


この地方は、雪が降る。


降雪こうせつが多い地域らしい。


もちろん、余裕で降り積もる。


―――ある日のこと。


朝。


この日は雪が降っていなかった。


分厚い毛織物けおりものの服を着た状態で、外に出る。


ひんやりした空気が、ふわっと肌を包み込む。


森も、山も、一面がしろに染まっている。


どこでも積雪せきせつしており、雪が積もってない場所を探すほうが難しい。


見上げると、うっすらとした水色の空が広がっている。


太陽が優しい陽射ひざしで雪を照らしていた。


雪たちは、陽光を浴びて、きらきらととおるようにかがやいている。


「今日は良い天気です!」


と私は大きく伸びをした。


ほう……と息を吐くと、白い吐息といきが空気に広がる。


おもむろに山小屋やまごやの屋根を見上げる。


屋根にも雪が積もっているのだが、その雪のうえに、見慣れたフクロウがいる。


トキフクロウのトキちゃんだ。


トキちゃんが山小屋に住み着いてから、ずっと、あの屋根の上を定位置ていいちとしているのだが……


今日も変わらずそこで、とどまっていた。


全然動いていなかったのか、頭のうえに雪が積もっている。


すっかりあの場所がお気に入りのようである。


「エサあげますか」


と、ひとりつぶやいて、屋内に戻り……


皿のうえにエサを乗せる。


トキフクロウは魚を主食にして生活しているので、フユニジマスを一匹乗せる。


フユニジマスは冬の川で獲れるニジマスである。


さらにトキちゃんの大好物であるチョコレートを乗せて、外に出た。


雪の地面に、皿を置く。


「おーい!」


と呼びかけると。


トキちゃんが、


「ホー!」


と、ひと鳴きしてから、


屋上からバサバサと飛び降りて、皿の前に着地。


ついばむようにフユニジマスを食べ始めた。


なごむ光景だ。


だが、


「うう、さむ」


さすがに冬の屋外おくがいは寒い。


手もかじかんできたが、何より雪に触れている靴裏くつうらから、冷気が立ちのぼってくる。


体温がどんどん奪われている感覚だ。


トキちゃんは放っておいても食事はするので、このまま放置でいい。


私は、家に戻ろう。









昼。


冬でも最低限の狩りや漁労はおこなう。


しかし他の季節に比べると、暇な時間は多い。


なので私は寝室にこもって、読書を楽しむことにした。


寒いので部屋のすみで火魔石ひませきを使うことにする。


火魔石をランタン型の容器にセットして、部屋のすみに置いておく。


ベッドに腰掛け、クレアベルに買ってもらった本を読む。


絵本を卒業してから与えられた本である。


読む。


読む。


読む。


ゆったりした気分で、静かに、本のページをめくる。


穏やかな時間だ。


気温は低いが、部屋のすみの火魔石ランタンが活躍してくれている。


少しずつ温まってきている。


「きゃはははは!」


ふと、窓の外から声が聞こえてきた。


本から目を離す。


ベッドから立ち上がり、窓の外へと視線をやった。


クレアベルとアイリスがいた。


声はアイリスのものだ。


トキちゃんにエサをやって遊んでいるらしい。


クレアベルも、アイリスも、すっかりトキちゃんとは仲良くなっている。


微笑ましい光景である。


(なんか、こういうの、いいな)


と、思う。


私は、前世では、天涯孤独てんがいこどくだった。


両親はすでに他界たかいしていたし、恋人や友達もいなかった。


でも、いまは、家族たちに恵まれている。


とても、満たされた気持ちである。


幸せだ。


心から、そう思った。


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