第4章66話:窓

「うん、良い部屋ですね」


と、私は感想をこぼした。


「私専用の部屋があるなんてすごい!」


山小屋では、アイリスと私は同じ部屋で寝泊まりしていた。


しかしチョコレート・ハウスでは、アイリスの部屋と、私の部屋は分離している。


クレアベルは苦笑する。


「ますます山小屋より快適に思えてしまうな」


まあ……それは否定しない。


そのときクレアベルは気づいたようにつぶやく。


「ただ……窓がないのか」


「……」


そう、チョコレート・ハウスに窓はない。


さすがに窓をチョコレートで作るのは無理だからだ。


ガラスの透明感は、チョコレートで再現できない。


……でも、やっぱり窓が欲しいよね。


窓がない家というのは、思ったよりも閉塞感へいそくかんがあるし。


クレアベルは述べる。


「いや、まあ不満があるわけではないぞ。ちょっと気になっただけだ」


「いいえ。窓も、作りたいと思っています」


「作れるのか?」


「……窓ガラスがあれば」


「ふむ。ならば今度、街に買いにいこう。私のポケットマネーで買ってやる」


「いいんですか?」


「ああ。生活するなら必要だもんな」


というわけで後日、窓ガラスを買いにいくことが決まった。


そのときアイリスが疑問を口にした。


「お姉ちゃん? さっきからずっと思ってたんだけど」


「ん、なんですか?」


「この家、全部チョコレートでできてるんだよね? じゃあ、この白い部分はなに?」


アイリスが壁のココアバター色を示唆してくる。


私がホワイトチョコレートを使えるようになったことを、二人はまだ知らない。


「実は、新しいチョコレートを生み出せるようになったんです」


「え、そうなの!?」


とアイリスは目を見開く。


「はい。これです」


私は右手の手のひらを仰向けにして。


その手のひらの上に、星型のホワイトチョコレートを2つ生成する。


「わぁ! 白いチョコレートだあ!」


「食べていいですよ。お母さんもどうぞ」


「ああ。ありがとう」


アイリスとクレアベルが、ホワイトチョコレートを手に取る。


アイリスが口に運ぶ。


「ん~! 美味しい! 甘い!」


クレアベルは、しげしげとホワイトチョコレートを眺めてから、口に運んだ。


もぐもぐと食べる。


「うん、美味しい! 確かに、甘いな」


「ホワイトチョコレートは甘さ特化ですからね」


カカオマスの苦味が抜けたホワイトチョコレートは、チョコの甘味が全面に出るようになっている。


甘すぎて苦手な人もいるだろう。


私は、ホワイトチョコレートも大好きだが。

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