第3章60話:費用について

連行れんこうされていくネリアンヌ。


その姿から視線を離した私は、クレアベルに声をかけた。


「お母さん……」


するとクレアベルは言った。


「遅くなってすまなかったな、セレナ。……だが、これで一件落着いっけんらくちゃくだ」


「はい。ありがとうございます」


クレアベルがライネアさんとソルフェーユ公爵を呼んできてくれた。


おかげで、ネリアンヌは完全に失墜しっついした。


貴族令嬢としての立場を失ったネリアンヌ。


犯罪者として裁かれるであろう彼女の未来は、真っ暗だろう。


逆に、私たちはネリアンヌの脅威におびえなくても済む。


ネリアンヌは決闘の要求を無視して、過激な行動を取るような口ぶりだったからね。


これでひと安心だ。


「セレナさん」


と声をかけてきたのはソルフェーユ公爵である。


私は背筋を伸ばした。


ソルフェーユ公爵が尋ねてくる。


「ネリアンヌはあなたを処刑しようとしていたそうですね?」


「あ、えっと……はい。ですが、決闘に勝ったので、処刑については撤回ということになりました」


「さようですか。では私から、改めて処刑撤回しょけいてっかいを申請しておく必要はなさそうですね」


ソルフェーユ公爵は微笑んだ。


私は告げる。


「ただ……決闘の結果、賠償ばいしょうをいただくことになっていたのですが」


「賠償、ですか」


「はい。実は、ネリアンヌ様に、私が住んでいる山小屋やまごやを破壊されたので」


「え?」


と反応したのはクレアベルである。


彼女はぽかんとして尋ねた。


「セ、セレナ? 山小屋を破壊されたとは、どういうことだ?」


言葉通ことばどおりの意味ですよ。ネリアンヌ様の部下であるジルさんに、山小屋を潰されたんです。いまぺしゃんこですよ」


クレアベルは口をあんぐりと開けた。


まあ留守にしていたクレアベルには、初耳だよね。


私はソルフェーユ公爵に言った。


「……で、決闘の要求として、ネリアンヌ様に山小屋の修理費用しゅうりひようと、慰謝料を求めていたんです。でも、ネリアンヌ様が投獄されるなら、どこに請求したらいいのか」


ネリアンヌが投獄されるなら、修理や慰謝料の件はうやむやになるのではないか?


私の懸念けねんしていることを理解してくれたソルフェーユ公爵が、答えた。


「その件に関しては、私にお任せください」


「ソルフェーユ様が?」


「ええ。メルディナ家の財産は没収となりますから、そこから、山小屋の弁償費や慰謝料を確保しておきましょう。後日、あなたがたに支払わせていただきます」


「……! ありがとうございます。それなら、安心しました」


これで山小屋の修理費は確保できる。


私はホッと肩をなでおろした。






かくして、ネリアンヌとの対決は幕を閉じた。


私たちは、穏やかな日常へと、戻っていくのだった。





第3章 完




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