第3章50話:開幕

戦闘が始まる。


「……!」


ジルが地を蹴り、間合いを詰めてくる。


かなり速い。


あっという間に接近される。


「ラァッ!!」


初手の前蹴まえげり。


想定よりはるかに高速の蹴りだった。


思わず私は、食らってしまう。


「!!」


ジルの蹴りが、私ののどに突き刺さる。


私は後ろにノックバックさせられる。


「はははははは!」


とジルが笑った。


「俺の蹴り、喉に食らっちまったなァ?」


ジルがギラギラした笑みを浮かべて続ける。


「喉がつぶれたテメエは、もう降参宣言はできねえ!」


……なるほど。


降参宣言を封じるために、初手で私の喉を潰しにきたのか。


「さてここで、俺様について、少し自己紹介をしてやる。テメエをボコり倒す前に、俺という存在の恐ろしさを伝えておいてやらねえとな」


と突然、ジルが自分のことを語りはじめる。


「俺は【地竜殺ちりゅうごろしのジル】という異名を持つファイターだ」


……地竜殺し?


「地竜を素手で殴り殺したことがあってな。そのときに、この異名がつけられたのさ」


とジルは誇らしげに告げる。


地竜とは、最弱種さいじゃくしゅのドラゴンだ。


最弱種といっても、竜種りゅうしゅなので、弱くはない。


あくまで竜の中では最弱というだけだ。


地竜を殺せばドラゴンスレイヤーを名乗ることができる。


ゆえに地竜殺しは、戦士や冒険者にとって登竜門となっている。


(なるほど……)


地竜を殺した実力。


それがジルの自信の根源になっているのか。


「もちろんドラゴンスレイヤーの称号も持っている。俺はな、選ばれた戦士なんだよ」


そこまで言ってからジルが高らかに言う。


「ははははは! どうだ、怖くなったか? 誰に喧嘩を売ったか理解できたか? だけど、もう遅え!」


さらにジルは続けて言う。


「降参される前に、テメエの喉を潰してやったからよ! 降参宣言は不可能! もうテメエは、俺に死ぬほどボコボコにされるのは確定ってわけだ! ひゃはははは!」


勝ち誇ったように大笑たいしょうするジル。


私は口を開いた。


「あのー」


「!!」


私が普通に声を出したことに、ジルが目を見開く。


私は告げる。


「私の喉、潰れてませんけど?」


「……な、なんだと!? バカな。確かに、喉に蹴りを食らったはず」


「まあ、確かに食らいましたけどね?」


食らったというか……


モロ直撃だった。


けど、別に喉は潰れていない。


私は言った。


「あんなショボい蹴りで、私の喉が潰せるわけないじゃないですか」


「……!!」


私の言葉に。


ジルの顔が、怒りに歪んだ。



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