第3章49話:神官

「では」


と神官の女性が声をあげた。


決闘者けっとうしゃが揃ったようですので、さっそく決闘を開始させていただきたいと思います」


次に、神官の女性は自己紹介をする。


「まず、私は、本決闘ほんけっとうの立会いを務めさせていただきます、シゼルディン精霊神殿せいれいしんでんの神官――――フィーナです。よろしくお願いします」


神官の女性フィーナさんが一礼する。


さらに続ける。


「決闘者は、まず――――ネリアンヌ・メルディナ殿。戦闘は、ジル殿が代理でおこなうということで、相違ありませんね?」


「ええ。間違いないわ」


とネリアンヌが答えた。


フィーナさんがこちらを向く。


「対する決闘者は、セレナ殿」


「はい」


と私は返事をする。


フィーナさんは続けた。


「双方の要求を確認いたします。ネリアンヌ殿の要求は、セレナ殿を処刑すること」


「ええ。そうよ」


「一方、セレナ殿の要求は、3点――――1点目。決闘以後、ネリアンヌ殿がセレナ殿や、その関係者に手出しすることを一切禁じる」


フィーナさんが一拍置いてから、さらに告げる。


「2点目、山小屋の修理費用を含めた慰謝料を支払うこと。3点目、セレナ殿への処刑を撤回すること。以上で相違ありませんか?」


「ありません」


と私は答えた。


フィーナさんが一つうなずいてから、告げた。


「以上の要求については、シゼルディン精霊神殿の名をもって承認いたします。決闘の敗者が要求を拒否することを、神殿は認めません。必ず要求内容を履行りこうするようにしてください」


神殿の名をもって、要求を強要する。


これで貴族だからといって、ネリアンヌは要求から逃げることは許されなくなる。


……まあ逆に、私が負けたら、処刑から逃げられなくなるのだが。


負けないように努力しよう。


フィーナさんが言った。


「では、諸々もろもろの確認が済みましたので、決闘を開始させていただきます。双方、武器を持ち、任意の開始地点に立ってください」


私は武器が要らないので、素手だ。


一方、ジルのほうも素手のようである。


お互い、武器を持たない無手。


その状態で、20メートルほどの距離を開けて向かい合う。


ネリアンヌが戦いの余波に巻き込まれないよう、離れた。


フィーナさんが言った。


「ルールは、相手を気絶させるか、降参宣言をさせたら勝ちです。殺すのは禁止です」


なるほど。


私は勝利条件を頭にインプットする。


「では双方、構え……」


私は戦闘体勢を取る。


ジルも戦闘体勢を取る。


静けさがただよう。


はらりと風が、グラウンドの土を舞い上げる。


フィーナさんが号令した。


「はじめッ!!」


かくして。


戦闘の火蓋が切られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る