第3章39話:三人称視点2

《三人称視点・続き》


「グオオオオッ!!」


と、くぐもった咆哮ほうこうをあげながら、チョコレート・ゴーレムが方向転換をする。


ザカルと並走をするのをやめて、ザカルに突進をしかけてきたのだ。


ザカルは慌てて【剣風】を放つ。


チョコレート・ゴーレムの首から上が吹き飛んだ。


だが、止まらない。


首を失ったまま、チョコレート・ゴーレムが接近してくる。


「ウソだろ!?」


チョコレート・ゴーレムがパンチを繰り出してきた。


ザカルは慌てて避ける。


空振からぶったチョコレート・ゴーレムのパンチが、背後の樹木に直撃して、木のみきをへし折った。


「ッ!!」


咄嗟とっさの判断で、ザカルは続けざまに【剣風】を2発放つ。


狙うは足。


剣風が、チョコレート・ゴーレムの足に命中し、膝から下を切断した。


足を失ったゴーレムは倒れる。


チョコレート・ゴーレムを実質的に無力化できたザカル。


しかし、そのことに喜ぶ暇はなかった。


「あ――――」


すぐ後ろに、チョコレートの本体が迫っていたからだ。


チョコレート・ゴーレムに逃亡を妨害された一瞬の時間。


その刹那のあいだに、目と鼻の先にまで接近されてしまった。


もうザカルは逃げられない。


「……っ……」


ザカルの目の前で、チョコレートの液体がぶくぶくとあらぶっていた。


しかし、その液体が意思を持ったように動き出す。


一つの形を取っていく。


その形とは……


チョコレートで出来た、人間の顔であった。


3メートルはあるかというほど、巨大な顔。


胴体はない。


首から上だけである。


その顔は、目と口が空洞になっており、おどろおどろしい見た目であった。


「あ、あぁ……っ」


ザカルはすでに死の恐怖に怯えていた。


そして、ここにきて、恐怖心は臨界点を越えてきた。


チョコレートの顔は、空洞になった口から声らしき音を発した。


「きひゃぁはぁあああああああ」


その音は言語ではなく、まさしく音。


人が聞いてはいけないような、発狂に値する奇音きおんだった。


もう、無理だった。


ザカルの心は、限界を超えた。


「ああああっ、ああああああああアアアアアアアッ!!」


恐怖で絶叫し、尻餅をついて。


ジタバタあばれながら逃げ出そうとするザカル。


だが、チョコレートの顔から無数に生えてきた手が、ザカルの腕を、足を、押さえつける。


完全に捕縛ほばくされてしまったザカルは、さらに発狂を強めた。






キトレル山に絶叫が響き渡る。


こうして。


盗賊たち4人は、みな、行方不明になった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る