第3章35話:盗賊3

(しかも、痛みもほとんど無いですしね)


腹部を撃ち抜かれたときにも痛みはなかった。


しかも貫通させられた傷は、とっくに治っている。


服も修復している。


この回復力……!


チョコレート魔法、強すぎるね。


「チョコレートは死なない。これは大自然の摂理です!」


と、私は高らかに言い放った。


さらに続けて告げる。


「というわけで、もう一度言わせていただきます。この山で悪だくみは許しま――――」


ザシュッ、と。


私の言葉が途中で途切れた。


視界がぐるりと回る。


……あれ?


なにこれ。


私、どうなった?


地面をころころと転がる。


私の胴体が、ぼうっと突っ立っている。


――――首を失った私の胴体。


それを、私は地面から見上げている。


あ。これ……


もしかして。


首を切り落とされた?


(またザカルが剣風を飛ばしてきたのか……)


あいつの攻撃、速いな。


と思っていると。


風に揺られたか、胴体もバタリと倒れる。


首になった私と、首を失った胴体が、地面を寝転がっている。


「ふう……多少驚きはしたが、大したガキじゃなかったな」


とザカルが言った。


赤髪の男盗賊が冷や汗を浮かべながら、告げる。


「び、びっくりしたぜ。腹ぶちぬかれて生きてるとか、なんだったんだこのガキは?」


その問いに、ザカルが推測を述べる。


「順当に考えれば、回復魔法の使い手だろうな。服まで修復されてるところを見るに、かなり高度な魔法だと思うが」


「えっと、どういうことですか? 即死したのに回復魔法なんて使えないですよね?」


と紫髪の女盗賊が尋ねる。


ザカルが答える。


「即死というが……実際は、一瞬で死ぬようなダメージを負っても5秒か10秒ぐらいは生きてるもんだ。そのわずかな時間のあいだに回復魔法で治癒ちゆすれば、死をまぬがれることもある。このガキはそれをやったんだろう」


「……なるほど」


と紫髪の女盗賊が納得した。


青髪の女盗賊が告げる。


「でも今度はさすがに死んだわよね。やっぱりザカルさんは、誰が相手でも無敵――――」


「死んでないですよ?」


と首だけになった私は告げた。


「「「!!!??」」」


ふたたび盗賊たちは驚愕する。


さっきよりも驚きが大きい。


全員、度肝どぎもを抜かれているようだった。


そんな中。


胴体だけになった私が、ひとりでに起き上がる。


「ひっ!?」


赤髪の男盗賊はビビりちらして、尻餅しりもちをついた。


胴体だけの私が、とてとてと歩き……


私の生首を拾い上げた。


その生首を胴体と接続する。


「あれ? なんかおかしいですね」


と私は思った。


あ……


胴体と首が反対になってる!?


今の私は、首が180度ねじり曲がっているような状態であった。


慌てて自分の首を取り外し……


正しい角度にセットしなおす。


ふう。


これで元通りだ。


「……化け物か」


とザカルが恐怖を含んだ声で、ぽつりとつぶやいた。


他の盗賊たちも、まるでオバケでも見るかのような目で、私を見つめていた。

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