第1章12話:釣り

「だが、一つだけ忠告しておかなければならないことがある」


と、クレアベルは前置きして。


私に言ってきた。


「セレナ。お前の能力がすさまじいのは確かだが、一度にりすぎはよくないぞ」


「……!」


「魚はいっぺんに獲ってはいけないんだ。乱獲して、川から魚が減ったり、いなくなったりしたら、えることもなくなるからな。目先の何週間は魚を食べられて幸せかもしれないが、将来的には不幸になってしまう」


なるほど……


失念していた考えだ。


クレアベルは告げる。


「魚に限らず、あらゆる自然の恵みは採りすぎてはいけない。自然への感謝を忘れず、必要なものだけいただくんだ。これはセレナだけでなく、アイリスにも理解しておいてほしいことだ」


「ん! 難しくて、よくわかんない!」


とアイリスが言った。


私が代わりに、クレアベルの言葉を要約した。


「自然のものは、食べるぶんだけとりましょうね、ってことですよ」


「そうなの? わかった!」


とアイリスが元気よく返事をした。


クレアベルが微笑む。


私は言った。


「じゃあ、この魚たちは、何匹か残してリリースしましょうか」


私は、網にかかった魚の中から3匹ほど選別する。


その3匹を【チョコレート・ハンド】を使って陸へと放り投げた。


魚がバタバタと陸の上で跳ねる。


食べるぶんは、この3匹だけで十分だろう。


クレアベルが肩をすくめながら言った。


「……お前のその魔法は、本当に便利だよな」


「はい。それは否定しません」


私は同意してから、チョコレートあみをほどく。


捕縛された大漁の魚たちが解放され、川へと着水。


各々おのおのの暮らしへと帰っていった。








私が残した魚は、


ソラニジマスx2


カワアジx1


の3匹である。


とりあえず、これらの魚たちを処理する。


まず、殺す。


次に内臓の除去をおこなう。


生臭なまぐさい魚のニオイに、ツンとした血臭けっしゅうが混じり、周囲に立ち込める。


クレアベルが言った。


「ここからは防腐魔法ぼうふまほうを使って保存するんだ。今回は私が魔法をかけておこう」


防腐魔法とは、数日間、対象を腐らせないようにする魔法だ。


私とアイリスはまだ防腐魔法は使えない。


だからクレアベルが、私の魚たちに防腐魔法をかけてくれた。


「これで3日は腐らないだろう。さあ、かごに入れておけ」


「はい」


私は魚をカゴへと放り込んだ。


「じゃあ改めて、釣りを再開しようか」


仕切り直しとばかりにクレアベルがいう。


籠からパタパタイモを取り出した。


「エサはパタパタイモを使う。この森にむ魚は、だいたいこのイモで釣れるんだ」


「へえ……」


私は相槌あいづちを打つ。


イモで魚が釣れるとは意外に思ったが、そういうものなのだろうと理解する。


すると、アイリスが言った。


「私、釣りやってみたい!」


「ああ、やってみろ」


そういって、クレアベルがアイリスに釣りを教える。


私もそのかたわらで、竹竿での釣り方を学ぶのだった。


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